動物福祉先進国の野生動物からの被害 ~現状と向き合い方~
動物福祉先進国の野生動物からの被害 ~現状と向き合い方~
2024年6月、北海道東部の別海町の牧場で野犬に襲われたとみられる4頭の牛が死んでいるのが見つかりました。
日本の多くの地域では野犬による被害はかなり減っていますが、山口県では県民が野犬に咬まれる事案が現在でも報告されています。
野犬だけでなく、熊や鹿、イノシシなどでも被害は相次いでおり、農林水産省のホームページによると、野生害獣による農作物への被害額はおよそ200億円。それぞれの自治体が対策に追われています。
実はこの野生動物による被害に悩んでいるのは日本だけではありません。動物福祉の先進国のアメリカやドイツでもこういったことが起きています。
では彼らはどのようにこれらの問題と向き合っているのでしょうか。
目次
アメリカ/カナダ
「スーパーピッグ」北米で急増する、野生化した家畜豚
USA Todayによると、スーパーピッグはカナダで急激に増加しました。スーパーピッグは農作物を食い荒らし、病気を蔓延させ、さらにはシカやヘラジカを殺していることが確認されており、従来の生態系や経済に深刻な打撃を与えています。
さらに長い牙を持つオスは子鹿を襲ったり鳥の巣を荒らしたりして野生動物に危害を加えるほか、家畜や農作物を食べたり、木を破壊したり、水を汚染したりして人間にも害をもたらしています。
「スーパーピッグ」とは
1980年代に農家がイノシシと家畜の豚を交配して作ったスーパーピッグは体が大きくて肉の生産量も多く、狩猟保護区で撃ちやすい豚を作ることを目的としたものでしたが、一部の個体が飼育下から逃げ出して野生で繁殖した結果、カナダ全土に広がってしまいました。
「高い繁殖力を持つスーパーピッグは、すでに人間では制御不能な状態となっています。今後カナダとアメリカの国境を越え、アメリカ・ミネソタ州、ノースダコタ州、モンタナ州に侵入する恐れがある。」と専門家は指摘。
イノシシはまた、無実の農家の作物を食べることから、木々を破壊し、水を汚染することまで、環境への多大な被害を引き起こしており、さらに新しいインフルエンザウイルスを作り出す可能性も人間へ感染するウイルスを運ぶ危険性まであるとされています。
アメリカ農務省によると、野生豚は少なくともアメリカ国内・35州で報告されており、合計600万頭と推定。農作物に年間約25億ドル(約3.6兆円)の被害を与えています。
では、動物福祉先進国であるアメリカやカナダはこれらとどのように向き合っているのでしょうか。
スーパーピッグ問題への向き合い方
最初に打ち出した対策は「駆除」でした。動物福祉先進国と聞いていた方からすると、少し意外かもしれません。
しかし、スーパーピッグはもともと野生には存在しない個体であるため、このままでは本来の生態系に大きく影響を与えます。
アメリカやカナダの科学者らは狩猟のほか大きなワナを作ったり、毒殺したりする取り組みをしていますが、今や豚は非常に広範囲に生息しており、数も多くなってきたため、2018年か2019年の終わりには根絶が可能だという希望は潰えました。
現在では、一匹の豚を捕獲し、GPS首輪を装着して野生に放し、群れに戻ったところで狩るという方法が一番効果的で、アメリカでも、生態系などマイナスな影響を与える動物にはこういた狩猟などの対応をとっています。
ドイツ
日本のクマより被害甚大なのに駆除できない「オオカミによる襲撃」
ドイツでもやはり野生動物による被害は増えています。しかも、こちらは動物福祉を掲げる政権下で駆除が事実上不可能なため、被害は拡大する一方。
そしてその被害というのが「オオカミ」です。
「Wolf(=狼)」と入力して検索してみたら、狼に家畜が襲われたニュースばかりで、しかも、最初の6ページは、数時間から1週間前ぐらいの新着記事がほとんどでした。
狼は犬と同じで非常に賢く、簡単に仕留められるとわかった獲物を狙うため、当時、動物以外で頻繁に被害に遭ったのは人間の子供と女性でした。
DBBW(ドイツ環境省:狼のための連邦文書:Dokumentations-Stelle und Beratungs-Stelle des Bundes zum Thema Wolf)によると2022年の狼による家畜や野生動物の被害は4366頭で、前年比29%増。
狼による家畜への被害は甚大で犠牲の9割が羊と山羊。その他、アルパカ、子牛、子馬、時には馬や牛の成獣までやられるので狼の威力はバカにできません。
ドイツの対応
危機感を抱いた畜産組合では、狼の駆除を申請しますが、保護柵の増強など、射殺の前にするべきことがあるはずだというのが環境省の考えなので、それがなかなか認められません。なお、防護を完全にしても被害が出た場合には、羊なら被害1頭当たり約300ユーロ(州によって差がある)の補償金が出ます。
すでにドイツの首都ベルリンの森でも狼の生息が確認されていますが、ドイツの環境省は「ヨーロッパ全体で狼の駆除が禁じられている」と強調したうえで
「現在、狼はドイツの一部で再び見られるようになったとはいえ、絶滅危惧種であることに変わりはない。目標は、狼の良好な保護状態を達成することである」と、狼の駆除には反対の意見を示しております。
まとめ
動物福祉先進国の野生動物による被害とその対応について紹介しました。アメリカのスーパーピッグは農作物を荒らすだけでなく、感染症の宿主になる可能性がありますし、狼は実際に人の命に危害がでる可能性があります。
駆除も保護もどちらが正解というわけではなく、彼らのことと命の大切さを理解し、私たちにできる最善策を考えていくことが大切ですね。
執筆者:深田龍誠
参考記事
- https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240621/k10014488741000.html
- https://www.yomiuri.co.jp/national/20210116-OYT1T50112/
- https://kyoukaimori.com/damage/#:~:text=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%AE%B3%E7%8D%A3%E8%A2%AB%E5%AE%B3%E3%81%AF%E5%B9%B4%E9%96%93%EF%BC%92%EF%BC%90%EF%BC%90%E5%84%84%E5%86%86,%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%A0%E3%81%9D%E3%81%86%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82
- https://www.pen-online.jp/article/015056.html
- https://www.theguardian.com/us-news/2023/feb/20/us-threat-canada-super-pig-boar
- https://president.jp/articles/-/76405?page=1
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