サンフランシスコの犬のしつけ事情
サンフランシスコの犬のしつけ事情
犬の数が子供の数を上回るほど犬を飼う家庭が多いサンフランシスコ。犬のリールを外して散歩している人もよく見かけますが、それでも全然問題ないくらいお利口な犬が多いのです。今回は、そんなサンフランシスコの犬のしつけ事情についてご紹介します。
トレーニングサービスの普及
日本では犬のしつけは各家庭で行うというのが一般的だと思います。
犬のしつけ教室が独自に行なった調査によれば、「しつけ教室」や「出張しつけサービス」といった犬のしつけのサービスの利用率は合計しても飼い主の5パーセント程度ととても少ないです。
他方、サンフランシスコでは犬のしつけにトレーニングサービスを利用する人が多いです。筆者のアメリカ人の友人もブリーダーから引き取った犬をトレーニングサービスに預け、帰ってきた時にはお手やお座りはもちろん、家庭内での必要な所作等も学び、とてもお利口になっていたとのことでした。
サンフランシスコでは、2000年代以降に訓練方法を身につけたトレーナーが増えたことが、ペットを飼う家庭が増え続けていることと相まってトレーニングサービス普及に大きく貢献したと言えます。犬のしつけに対する専門家が増えたきっかけとして、1999年にジーン・ドナルドソン氏によって設立されたアカデミー・フォー・ドッグ・トレーナーズ(The Academy for Dog Trainers)の存在があります。
当初、アカデミーのトレーニングプログラムはサンフランシスコSPCA(動物虐待防止協会)におけるプログラムとしてスタートしましたが、現在では独自にオンライン形式の2年間のeラーニングコースを提供しています。アカデミーでは科学的根拠に基づいた犬の行動と訓練方法を学ぶことができ、多数の卒業生がトレーナーとして活躍するようになりました。
ちなみに、コロナパンデミック期間中にカリフォルニア州ではロックダウンの時期があり、その期間に多くの人がペットを飼い始め、トレーニングサービスに対する需要が一時的に非常に高まりました。
トレーナーはどんな人?
カリフォルニア州において、犬のしつけを行うドッグトレーナーに対する国家資格や公的な認定制度は存在しません。そのため、トレーナーは上記で言及したアカデミー等の民間サービスを通じて各自で経験を積み、専門的な知識や技術を習得することが求められます。
業界内での信頼性や専門性を示すために、トレーナーは民間の認定資格を取得することが一般的です。代表的なものとして、米国ペットドッグトレーナーズ協会(APDT)が提供する「CPDT-KA(Certified Professional Dog Trainer-Knowledge Assessed)」があります。
この資格は、学習理論やトレーニング技術、動物行動学などの知識を評価するもので、国際的にも認知されています。
さらに、アメリカンケネルクラブ(AKC)の「Canine Good Citizen Evaluator」などの資格を取得することで、専門性を高めるトレーナーもいます。これらの資格を持つことで、飼い主からの信頼性が向上し、より質の高いトレーニングサービスを提供することが可能となります。
しかし、近年犬のトレーニングが普及し、過剰なしつけが動物虐待とされるケースや、中にはトレーニング中に犬が死亡する事件が起こるケースもありました。カリフォルニア州では、そうした事態を防ぐために、2020年に、トレーナーに対して動物保護要件の遵守や情報公開の義務を課すといった規制も設けられました。
一般的なトレーニング方法は?
しつけと聞くと体罰等を伴う厳しいものが想像されるかもしれませんが、上述のアカデミーをはじめとして、近年では科学的な根拠に基づくポジティブ強化トレーニング(英語では”Positive Reinforcement“)が一般的なアプローチとして定着しています。
ポジティブ強化トレーニングは、望ましい行動に対して報酬を与えることで、その行動の再発を促すというものです。報酬には、おやつや褒め言葉、遊び等があります。
望ましい行動を良い結果と結びつけることで、犬はその行動を繰り返すことを学習します。例えば、犬が言うことを聞いたときにおやつを与えることで「お座り」を教えると、「お座り」の行動が強化されるといった具合です。
サンフランシスコのトレーナーも多くがポジティブ強化トレーニングを採用しています。例えば、Yelpにおいて犬のトレーニングサービス提供者として最もレビュー数が多い”Dog Gone Good”では、ポジティブ強化トレーニングを前提としつつ、さらに犬と飼い主の固有の関係を理解し、それぞれに合わせてアプローチをカスタマイズして以下のようなサービスを提供しています。
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プライベートレッスン
噛みつき等の予防策や「待て」「お座り」「伏せ」といった基本的な訓練からはじまり、屋外の気が散る状況におけるノーリードまで、犬の状況と顧客のニーズに応じたレッスン。 -
ボーディング&トレーニング
犬を預かりながら集中的にトレーニングを行うプログラム。顧客の予算とニーズに応じて期間やトレーニング内容を設定。 -
トリック&アジリティクラス
日常行動に関する訓練を超えて、犬と一緒に楽しめるトリックやアジリティの習得を目指すクラス。
まとめ
このように、サンフランシスコでは、犬のしつけにおいて、多くの民間認証を有するトレーナーが、科学的根拠に基づくポジティブ強化トレーニングを提供しています。
このアプローチにより、犬はストレスを感じることなく学習し、生活に必要な基本的な所作から、飼い主と共に楽しめるトリックやアジリティまで、多彩なスキルを身につけています。
その結果、サンフランシスコ市内や公園では、リードなしで飼い主と共に散歩や遊びを楽しむ光景が日常的に見られ、犬と人々が調和したコミュニティが形成されています。
執筆者:SShima
参考記事
- 「犬のしつけに関するアンケート」、犬のしつけ教室「ドッグキャッチ」
- “U.S. PET TRAINING SERVICES MARKET – INDUSTRY OUTLOOK AND FORECAST 2021-2026”
- The Academy for Dog Trainers
- Lighthouse、「アメリカで働く(多様な職業のインタビュー集)」
- utm_source=chatgpt.com CCPDT, “Dog Trainer Certification”
- American Kennel Club, “What is Canine Good Citizen (CGC)?”
- California Legislative Information, “AB-2691 Dog training services and facilities: requirements.”
- SF SPCA, “Reward-Based Training”
- Dog Gone Good
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