オーストラリアの動物愛護事情 ~オーストラリア最大の動物保護団体 ”RSPCAオーストラリア”~
オーストラリアの動物愛護事情
目次
オーストラリア最大の動物保護団体 ”RSPCAオーストラリア”
ペット大国といわれるオーストラリアの世帯飼育率は約70%、つまり10世帯中7世帯がペットを飼育しており、その数は約2,870万頭にもなります。
オーストラリアで一番多く飼育されているペットは犬で、推定飼育頭数はおよそ570万頭、世帯飼育率はおよそ40%になります。日本の推定飼育頭数は約705万頭とオーストラリアよりも多いのですが、日本は人口が多いため、犬の世帯飼育率は10%程度になります。
オーストラリアで2番目に多く飼育されているペットは猫で、推定飼育頭数はおよそ490万頭です。日本で飼育されている猫の頭数は約883万頭なので、それに比べると少ないのですが、総世帯数の少ないオーストラリアでの飼育率は日本よりもかなり高くなります。
しかし、このようなペット大国のオーストラリアでもシェルター(保護施設)などに収容され、安楽死という最後を強いられてしまうペットの数は少なくありません。
2021年から2022年の間にオーストラリアのシェルターなどに収容された犬は約19,000頭、猫は約35,000頭でした。そのうち、多くの犬猫はオーストラリア動物保護団体の活動により新しい暮らしを手に入れることができましたが、残念なことに約2,400頭の犬と6,500頭の猫は安楽死処分となりました。なお、オーストラリアで保護された動物のうち安楽死対象となるのは、健康上の問題やトレーニングではコントロールすることが難しい問題行動(攻撃性など)がある場合のみです。
日本では、2021年に保健所や保護センターに収容された犬は約24,000頭、猫は約34,000頭でした。そのうち殺処分となった犬は約2,700頭、猫は約12,000頭です。近年、日本でも多くの動物保護団体が尽力し、その数はかなり減りつつありますが、殺処分ゼロまでの道のりはまだまだのようです。
オーストラリアでは動物の命や暮らしを守るために多くの動物保護団体(1,000以上)があります。なかでも、オーストラリア全土で広く活動しているのはRSPCAオーストラリアです。この団体は動物保護を目的とする慈善団体ですが、オーストラリア各州の自治体に加盟し、動物保護に関して法的な措置を実施することも可能です。
RSPCAはRoyal Society for the Prevention of Cruelty to Animalsの略で、およそ200年前にイギリスで設立された世界最古かつ最大の動物保護団体です。
オーストラリアでは、1871年ごろから各州で動物保護団体が設立されましたが、1980年、そのような団体が統括され、イギリスのRSPCAにちなんでRSPCAオーストラリアが設立されました。RSPCAオーストラリアとイギリスのRSPCAとは個々の団体ですが、実施している活動内容は似通っています。
RSPCAオーストラリアで実施している主な活動は以下のとおりです。
1. 飼育できなくなった動物の保護および譲渡
新しい家族として動物を迎え入れても、様々な理由により飼育し続けることが難しくなることがあります。
RSPCAオーストラリアでは、そのような動物を受け入れ、新しい飼い主に譲渡する活動を行っています。保護・譲渡対象動物は犬猫の他、鳥や魚、フェレット、ウサギ、モルモット、馬、牛、山羊、羊、カメやヘビなどの爬虫類まで多岐にわたります。
保護された動物たちは、RSPCAオーストラリアでヘルスチェックを受け、問題行動など、ペットとしての適正が評価されます。
適正試験に合格した動物たちは譲渡リストに登録され、譲渡希望者があった場合にシェルターなどで面談が行われます。
譲渡希望者には動物の性格やこれまでの生活環境、健康状態等の情報が開示され、動物と譲渡希望者との相性、譲渡希望者の生活環境などから、新しい飼い主としての適正が評価されます。
特に問題がないと判断された場合、譲渡希望者に動物が引き渡されます。
なお、RSPCAオーストラリアが所有しているシェルターの数には限りがあるため、譲渡を希望する動物を全て収容することは不可能です。そのため、シェルターで保護できない動物は、フォスターケアというシステムにより、一般家庭で保護されています。
(フォスターケアについては、”オーストラリアの動物愛護事情~保護動物を支えるフォスターケアシステム~”をご参照ください。)
2. 虐待など、適切に飼育されていない動物の保護、治療、飼い主への法的措置
残念なことに、動物虐待はオーストラリアでも起きています。また、飼い主が不適切な飼育法だと気づかずに、もしくは意図的に、動物にとってつらい環境で飼育されていることも少なくありません。
動物虐待などが疑われる場合、一般市民や獣医師はRSPCAオーストラリアに通報することができます。通報後、飼い主の許可が得られなくてもRSPCAオーストラリアはその飼育場所を強制的に訪問、調査することができます。
動物の虐待や不適切な飼育が認められ、状況の改善が見込まれると判断された場合には、正しい飼育法や治療の必要性などが指導され、一定期間後に再調査が行われます。その時までに状況が改善されていなければ、動物は保護され、飼い主に対しては罰金の請求、動物福祉法に基づく起訴等の法的措置がとられます。
3. 各動物に関する情報提供
動物と飼い主がともに快適な暮らしをおくることができるよう、各動物の健康管理法や飼育法などについて、また、多くの飼い主が持つ疑問を解決できるような情報を、動物ごとにかなり詳しく、わかりやすく提供しています。
また、犬のトレーニングに関しては、RSPCAオーストラリア認定のドッグトレーナーやトレーニング教室を紹介し、犬の問題行動の軽減に努めています。
RSPCAオーストラリアがウエブサイトで提供している動物に関する情報例
- 同居している猫が他の猫に対して攻撃的な時の対処法
- 子犬に対するトイレトレーニング法
- 犬や猫、鳥、ウサギなどのコンパニオンアニマルを飼育することにより人が得られる利点
4. 負傷した野生動物の保護と治療
オーストラリアでは、野生の鳥や動物が交通事故などにより負傷することが多く、そのような動物は近くの動物病院やRSPCAオーストラリア、各地域の動物保護団体が保護し、必要に応じて治療やリハビリテーションを行います。
5. 動物に関する統計
RSPCAオーストラリアでは、オーストラリアで飼育されている動物の数や世帯飼育数、保護動物数など、動物に関する統計調査が実施され、定期的に発表されています。
このように、オーストラリアではRSPCAオーストラリアをはじめ、多くの動物保護団体やフォスターケアラー(保護した動物を一時的に自宅で面倒をみるボランティアの方々)が犬や猫、動物たちの命や暮らし、QOL(クオリティオブライフ;生活の質)を守るために日々活動しています。
参考ウェブサイト
執筆者:ルール久枝
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