以前掲載した「犬にとって最高の街|世界ランキング」で1位としてご紹介したサンフランシスコ。街全体で動物福祉を支える体制が整えられ、「ノーキル(殺処分ゼロを目指す)」の先進都市として全米から注目されてきました。
一方で、2023年以降は収容数の急増でシェルターが「満員」になり、犬の安楽死が12年ぶりの高水準になったという厳しい現実もあります。
この記事では、サンフランシスコの動物シェルターの仕組みと、いま起きていることをご紹介します。
2つの組織で支えるサンフランシスコの動物保護体制
サンフランシスコの動物シェルターは、2つの主要な組織が役割を分担しながら運営しています。
SF SPCA(民間・非営利)
1868年設立、150年以上の歴史を持つ民間の非営利団体「SF SPCA(San Francisco Society for the Prevention of Cruelty to Animals)」。
動物の医療ケア、不妊・去勢手術、譲渡、地域住民への教育啓発が主な活動です。虐待や放置から保護された動物のリハビリや、新しい家庭とのマッチングを支えるカウンセリングも提供しています。
SFACC(市営)
1989年設立の公営シェルター「SFACC(San Francisco Animal Care & Control)」。
市が運営する「オープン・アドミッション(すべての動物を受け入れる)」のシェルターで、迷子や放置された動物の収容、市民からの通報対応、動物の救助や保護のための法執行、危険な動物への対処など、公共の安全に関わる役割を担っています。
つまり、SFACCが「まず全部受け入れる」役割、SF SPCAが「医療とケアで譲渡につなげる」役割。SFACCに収容された動物のうち、医療やトレーニングが必要な子をSF SPCAが引き取る、という連携で成り立っています。
「ノーキル・ポリシー」とは
サンフランシスコの「ノーキル・ポリシー」は、動物の殺処分を最小限に抑えるための方針です。
1994年、SF SPCAとSFACCが結んだ「譲渡協定(Adoption Pact)」により、健康で問題行動のない犬猫は、里親が見つかるまで殺処分しないことが正式に決まりました。これは全米の大都市で初めての取り組みで、サンフランシスコが「ノーキルの街」と呼ばれる原点です。
例外は、治療の難しい重い病気やけがを抱えている場合と、著しく攻撃的で人やほかの動物に危険を及ぼす恐れがある場合のみ。この場合はSFACCで安楽死が行われます。
このポリシーを実現するため、シェルターでは動物の健康管理や社会化プログラムを強化し、地域住民には動物保護と適切な飼育についての教育を行ってきました。サンフランシスコの取り組みは、その後全米に広がった「ノーキル運動」のモデルになっています。
規模とサービス|最新の実績
サンフランシスコのシェルターが受け入れるのは年間数千頭。大半は犬と猫ですが、ウサギ、鳥、爬虫類など多様な動物が対象です。
SF SPCA(2024年)
- 直接サービスを提供した動物:27,378頭
- 譲渡:2,571頭
- 不妊・去勢手術:14,739頭(サンフランシスコとセントラルバレー地域、87%は補助付き)
- フォスター(一時預かり):335人のボランティアが1,162頭をケア
- 地域のコミュニティ動物病院で4,835頭を治療
SF SPCAには獣医師や専門医が常駐し、外科手術、歯科、内科、皮膚科、ワクチン接種、慢性疾患の管理まで幅広い医療を提供しています。特に、安価または無料の不妊・去勢手術は、地域の動物の数を抑える上で大きな役割を果たしています。
また、虐待や長期間の放置を経験した動物には心理的なケアも重視されており、訓練士による社会化トレーニングやストレス軽減プログラムを通じて、新しい家庭にスムーズに馴染めるよう支援しています。
SFACC
市営のSFACCは年間およそ6,000頭前後の動物を受け入れています。迷子や虐待からの保護が多く、市民からの通報による救助は年間1,000件を超えます。保護した動物には社会化トレーニングや行動改善プログラムが提供され、譲渡や飼い主への返還につなげています。
「ノーキルの街」が直面する満員の現実
ここまで見てきた体制は今も変わっていません。しかし2023年以降、サンフランシスコのシェルターはこれまでにない数の犬を抱えています。
何が起きているのか
- コロナ禍で一時的に増えたペットの飼育が落ち着き、手放される犬が増加
- コロナ禍で不妊・去勢手術が止まった影響で、子犬の「ベビーブーム」が発生
- 獣医療費の高騰で、飼い続けられなくなる飼い主が増加
- 大型犬を中心に、譲渡が受け入れのペースに追いつかない
その結果、SFACCは「犬で完全に満員」の状態が続き、2024年の犬の生存退所率(生きてシェルターを出た割合)は88%と、12年間で最低に。地元紙の報道によれば、2024〜25年度はさらに86%まで下がり、安楽死となった犬は約400頭と過去10年で最多になりました。
SF SPCAがSFACCから引き取る犬の数も、かつての年間約600頭から200頭未満に減っています。
対策の動き
こうした状況を受け、サンフランシスコ市では犬の不妊・去勢手術の義務化が検討されるなど、「シェルターに入る動物そのものを減らす」ための政策議論が始まっています。フォスターや譲渡費用の減免など、シェルターから出る動物を増やす取り組みも強化されています。
「ノーキル」は一度達成したら終わりではなく、社会の状況が変わるたびに守り続けなければならないもの――サンフランシスコの現状は、そのことを教えてくれます。
(同じ「満員」の問題は、ハワイのシェルターでも起きています。ハワイの最新・最大シェルターの記事もあわせてご覧ください)
まとめ
サンフランシスコでは、市営のSFACCと民間のSF SPCAが役割を分担し、地域全体で動物福祉を支える体制が整っています。1994年の「譲渡協定」から始まった「ノーキル・ポリシー」は、全米の都市のモデルになりました。
一方で、2023年以降は収容数の急増により、その理念が試される局面を迎えています。不妊・去勢手術の推進、フォスター、譲渡の後押しなど、地域全体で「シェルターに入る動物を減らし、出る動物を増やす」取り組みが続いています。
執筆者:SShima
(2026年9月 最新の実績と現状を反映して更新)
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