保護犬猫と受刑者が互いを救う プリズン・ペット・パートナーシップとは
保護犬猫と受刑者が互いを救う プリズン・ペット・パートナーシップとは
あなたはプリズン・ペット・パートナーシップという言葉を聞いたことがありますか?「プリズン」とは刑務所のこと。刑務所の受刑者と動物をつなぐパートナーシップ。それがプリズン・ペット・パートナーシップです。
ワシントン州では矯正施設全体をあげて動物介在プログラムを奨励しており、ワシントン州に全部で12ある刑務所(内二つは女子刑務所)には、なんと犬のプログラムが7つ、猫のプログラムが6つも存在します。
アメリカで出された「刑務所収容者に対する犬をベースとした動物介在介入の効果」という論文では、動物介在介入(Animal Assisted Intervention, AAI)によって男性と女性の受刑者の精神衛生、感情のコントロール、共感、学力など、さまざまな変数を改善するのに役立つツールになる可能性があると発表されています。
日本では馴染みのないプログラムですが、一体どのようなものなのでしょうか?
プリズン・ペット・パートナーシップとは
プリズン・ペット・パートナーシップとは、受刑者が保護犬を介助犬に訓練し、保護猫を飼い猫として躾け、引き取り手を探すという動物介在プログラムです。
アメリカ・ワシントン州の女子刑務所で30年以上続くプログラムは、受刑者たちの心の回復を促すだけでなく、職業訓練としても大きな成果を上げています。
犬が介在するプログラムでは、保護犬を介助犬として活躍してできるように訓練したり、保護犬に一般的なしつけをして新しい家族へ譲渡したり、セラピー犬にするための訓練を行います。
猫の場合は人に慣れていない保護猫を受刑者が世話して、人との生活に慣らしていくプログラムが一般的です。
これまで刑務所という環境で、社会復帰に必要な心情を養ったり、自尊心や他者への思いやりを養ったりすることは非常に困難で、不可能だと考えられてきました。
刑務所のスタッフによると、「プログラムのセラピー犬は、受刑者に対して、思いやりのあるケアの要素である、明確で統合された安心感、サポート、愛情を生み出します。これは、受刑者とスタッフ、および施設の間に信頼関係を築くのに役立ちます。」と語っており、犬が介在するプログラムを行うことで、施設内での信頼関係を改善させることができた上、受給者たちの健康面のサポートや薬物使用の減少など刑務所生活の改善にも効果的でした。
(2023年,カナダ,メアリエレン・ギブソン氏らによる論文より)
プログラムのメリット
プリズン・ペットパートナーシップにはたくさんのメリットがあり、大きくは以下の通りです。
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受刑者
命あるもののケアをすることによって、責任感や忍耐力を養うなどの人間的成長が得られる。
刑期終了後の就労につながるスキルを得る。 -
犬猫へのメリット
愛情あるケアを受け、新たな家族の元へ行くことができる。
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刑務所側
受刑者の心情が穏やかになり、刑務所内での争いごとが大幅に減るなど、施設の運営が円滑になる。
実際にワシントン州の刑務所から多くの保護犬猫が新しい家庭へ譲渡され、ここでトレーニングした介助犬は多くの人の生活に貢献しています。
プリズン・ペット・パートナーシップの始まり
今でこそアメリカで犬猫を活用した刑務所のプログラムは主流になりましたが、米国で最初に成功した動物療法プログラムの1つは、一人の受刑者とスズメがきっかけで始まりました。
精神科ソーシャルワーカーとして働いていたデイビッド・リーという男性は、ある病棟で患者が刑務所の庭で傷ついたスズメを見つけ、それをこっそり建物に持ち込んで世話をしたことで、多くの改善や変化が起こっていることに気付きました。
そこでデイビッドは2つの病棟のうち一つにペットを導入し1年間にわたって彼らを観察した結果、ペットを飼っている病棟では投薬量が半分で済み、暴力も減り、自殺未遂もありませんでした。
そこから刑務所でのペットの介在活動が徐々に導入され、今ではワシントン州に12ある刑務所のすべてにプリズン・ペット・パートナーシップが導入されています。
プログラムに参加した受刑者
ワシントン女性矯正センターに収監されているアマリア・カスティーヨさんはラブラドール・レトリーバーのパトリックのトレーニングを行っています。
「ここに来たとき、私は敗北感を覚えました。私の人生は終わったと思いました。」
「その後刑務所の職員から犬の介在プログラムについて話があり、私の中で何かが動き出しました。」
と、彼女は語っていました。
パトリックとの出会いによってカスティーヨさんの心境に変化が起きます。
「今ではこの犬たちは私たちにとって我が子のような存在です。」
カスティーヨさんはのちに認定ペットケア技術者の資格を取得し、刑務所の認定犬訓練士となり現在も訓練士として活躍しています。
まとめ
今回はワシントン州をはじめとして、アメリカ全土で普及してきているプリズン・ペット・パートナーシップについて紹介しました。
日本ではまだまだ馴染みがないですが、官民共同運営の刑務所「播磨社会復帰促進センター」(兵庫県加古川市)では精神疾患や知的障害のある受刑者を対象に、いち早くアニマルセラピーを導入しています。
保護犬猫の殺処分頭数の減少にとっても、受刑者の社会復帰にも大きなメリットがあると研究での裏付けもあるので、筆者としても日本でも全国的に広まって欲しいと切に願っております。
執筆者:深田龍誠
参考記事
- https://www.wagives.org/organization/Prisonpetpartnership
- https://sippo.asahi.com/article/10562945
- https://www.newlifek9s.org/post/historical-perspectives-on-inmate-animal-interaction-programs
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7697666/
- https://sippo.asahi.com/article/12920707
- https://sippo.asahi.com/article/10562945
- https://www.opencampusmedia.org/2024/05/17/behind-bars-women-in-washington-learn-to-care-for-pets-they-also-learn-to-care-for-themselves/file:///C:/Users/user/Downloads/PAP%20Bibliography%202011-2019.pdf
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10434859/
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