カリフォルニア州保護犬施設の危機

カリフォルニア州保護犬施設の危機

北米は動物福祉の先進国として、知られています。
著者はカナダのバンクーバーに住んでいますが、地元の保護施設には収容されている保護犬がそこまで多くないので、海外からの保護犬も積極的に受け入れています。

なかでも一番多いのが、アメリカ合衆国から送られてくる保護犬です。
そのアメリカで2023年、カリフォルニア州は不名誉な二冠を達成してしまいました。
米国内の保護施設で、安楽死させられる犬の数が最も多く、野良犬の数が最も多い州として、第1位になったのです(シェルター・アニマルズ・カウント調査)。
安楽死させられる保護犬の割合は米国全体の平均8.5%に対し、同州は17%となっています。
しかも、調査に回答したのは、同州にある全保護施設の40%のみでした。
このため、安楽死した犬の実数は、もっと多いといわれています。

米国の避妊・去勢手術事情

ドッグキャンサーの調査によると、アメリカの85%の犬が去勢や避妊手術を受けているそうです。
これらの手術を受けることで、生殖器関連の疾患を予防できるため、オスだと13.8%、メスは26.3%寿命が長くなると報告されています。

ここに、驚くべき数字があります。
一匹の避妊手術を受けていないメス犬と、その犬が生んだすべての子犬やその子孫を合わせると、わずか6年間で6万7千匹の子犬が生まれます。
将来、ホームレスになる可能性のある犬を増やさないためにも、避妊手術はとても重要なのです。

カリフォルニア州の犬の数

カリフォルニア州の住民の約4人に1人が犬を飼っているそうです。
その中でも同州で人口が一番多いロサンゼルスでは、なんと530万匹もの犬が暮らしています。

2022年から2023年にかけて、ロサンゼルス全域の動物保護管理センターに、31,591匹の飼い主のいないペット(鳥やウサギ、犬、ネコが含まれますが、大多数は犬やネコ)が保護されました。
このうち、約70%が野良犬またはネコで、21.5%は飼い主が遺棄したものでした。
過去の統計からいくと、ネコと犬の数はだいたい同数です。

保護施設は満杯

2019年以降、地元の施設は増加する保護犬の収容に苦慮していて、現在では多くの施設が満員状態となっています。
その結果、多くの保護施設では生活環境の悪化、医療処置の減少、安楽死の増加といった事態に陥ってしまいました。

同州サンタ・バーバラ郡、動物管理局のエスメ・メディナ氏によると、主な問題は引き取られる犬よりも、新たに収容される犬の数の方が多く、出入のバランスが取れないことです。

保護犬の増加と譲渡が停滞する理由

施設が過密状態になることは、州内の都市では以前からありました。
ですが、新型コロナウイルス感染症によるロックダウンの解除後、動物を引き取った一部の人たちが、すでに収容が限界に達していた施設に犬を戻し始めたのも一因です。

では、保護犬の譲渡がすすまないのは、なぜなのでしょう?
それには飼い主の経済状況が関係していると思われます。

2020年以降、パンデミックのロックダウンによって、多くの人が職を失いました。
また最近ではインフレにより家計が苦しくなって、ペットの世話にまで手が回らなくなったことが原因にあげられます。

施設の環境改善と野良犬を減らす取り組み

今夏に州議会で審議され、通過したばかりの法案1233号は、施設の環境改善と野良犬の数を抑制することを目的としています。
カリフォルニア州認定の2つの獣医学部で、全米初の「良質で大量の避妊・去勢手術」認定プログラムを創設し、獣医師が低費用または無償で多数の避妊・去勢手術の実施をできるようにします。

2021年のカリフォルニア大学デービス校の研究では、毎年同州で15万匹の犬とネコが避妊や去勢手術を受けずにいると推定されています。
その結果、州内の保護施設で約10万匹の犬とネコが殺処分を受けているのです。

施設の環境悪化の理由

市の動物管理局を監督する委員会の委員長を務めるユニセス・ヘルナンデス市議会議員は、「この部署は何十年にもわたり慢性的な人員不足と予算不足に悩まされてきました」と語ります。

2024年4月の調査によると、サウス・ロサンゼルスの動物保護施設には約500匹の犬がいますが、犬小屋や檻は243匹分しかありません。
収容能力は限界をはるかに超えています。

新規の犬の繁殖許可を一時的に凍結

2024年5月27日以降、ロサンゼルス市では、市の保護施設にいる犬の数が制御されるまで、犬の繁殖許可が一時的に発給停止されることになりました。
当局は、保護施設の収容率が3か月間、常に犬小屋の総収容能力の75%以下になるまで、新しい犬の繁殖許可証の発行を制限する方針です。
同市では年間平均2,000件の犬の繁殖許可証が発行されており、これが犬の過剰繁殖の一因となっています。

カリフォルニア州、特にロサンゼルス地域では、保護施設の環境改善と犬の過剰繁殖を減らすことが急務となっています。
今年決まった法案の結果が出るにはしばらく時間が必要でしょうが、この危機をどうにか乗り超えてくれるよう、願うばかりです。

執筆者:toramaru

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。