アメリカにおけるペットのストレスチェック
アメリカにおけるペットのストレスチェック
アメリカでは、ペットの福祉や健康に対する関心が年々高まっており、ストレスの兆候を早期に発見し、適切なケアを行うことが重要だという認識が飼い主や動物福祉団体に広まっています。今回は、アメリカにおけるペットのストレスチェックについて、その状況や取り入れられている最新の方法についてご紹介します。
ペットのストレスへの関心の高まり
近年、ペットのストレスへの関心は大きく高まってきました。例えばアメリカンペット製品協会(APPA)の2024年の報告書では、2018年以降に犬・猫のストレス軽減の商品は150%以上増加しているとしており、ペットの健康とウェルビーイングへの関心の高まりは米国のペット関連支出の増加につながっていると分析しています。
この背景には、飼い主とペットの関係がより密接になっていることが挙げられます。
同報告書では、ペットと飼い主が過ごす時間が2018年に比べて増加傾向にあることに加えて、ペットのための誕生日会への人気の高まりや、ペットを連れた旅行の増加についても報告されています。
近年の研究ではペットをもつことが飼い主の健康状態にも影響を与えるという結果も報告されています。
スウェーデンにおいて40-80歳の300万人以上を対象として実施された調査では、犬を飼っている人は飼っていない人に比べて心血管疾患による死亡リスクは15%低い等という結果が得られています。元来、ペットを家族の一員とする文化が強いアメリカですが、こうした健康観の発展はペットの福祉や健康への関心の高まりを後押ししていると思われます。
ストレスチェックの方法
アメリカでは、飼い主は自宅での観察を通じてペットのストレスレベルをモニターしつつ、獣医を受診し、定期的な健康診断も行うことが一般的です。米国獣医学会(AVMA)の2023年の調査によると、ペットの飼い主の88%が、獣医師にペットを実際に診察してもらうことが最善のケアにつながると考えており、過去1年以内に定期検診を受診した人はアンケート回答者の84%でした。
かかりつけの獣医師等の専門家は、行動観察や生理学的データの分析によりストレス診断を行います。行動観察とは、ペットの異常な行動(過剰な吠え、噛みつき、食欲不振等)を観察し、ストレスの兆候を判断します。これには、飼い主自身の観察に加えて、専門家による詳細な評価が含まれます。また、生理学的データの分析とは、心拍数、血圧、コルチゾール(ストレスホルモン)のレベルを測定することで、ストレスの程度を定量化します。
他方、クーミル株式会社が実施したアンケート調査によれば、日本のペットの飼い主のうち定期的な健康チェックのために獣医を受診する頻度が毎月又は毎年と回答したのは121人(回答者の52%)であり、単純比較は難しいですが、アメリカの方が獣医への受診がより一般的な可能性があります。
日本の獣医数は約36,000人(2022年時点)に対して、アメリカの獣医数は約127,000(2023年時点)であり、人口1000人当たりで考えてもアメリカの方が日本よりも獣医師が30%以上多いという社会的背景も獣医受診がアメリカの方がより一般的な要因になっているかもしれません。
アメリカにおける最近のトレンド
さて、ペット関連支出が増加傾向にある点に触れましたが、アメリカでは「ペットテック」市場が注目を浴びています。ネバダ州ラスベガスで毎年1月に開催される世界最大規模の電子業界向け見本市であるCES(Consumer Electronics Show)においても、IoT技術を用いてペットの首輪等に装着して使用するウェアラブルデバイスや見守りカメラなど、ペットテック関連の新製品が紹介されています。
日本でもペットテック市場は拡大すると予測され、近年様々な商品・サービスが登場していますが、ストレスチェックを含む文脈で興味深いのは、アメリカにおける獣医師へのオンライン診療サービスの普及です。
例えば、ニューヨークを拠点とするSmall Doorという会員制の動物病院がオンライン診療サービスを展開しており、飼い主はスマートフォン等を通じて獣医師と直接コミュニケーションをとることにより、ペットの健康状態や行動に関する疑問や不安を、迅速かつ手軽に相談することが可能になっています。
また、スウェーデン発のスタートアップであるFirstVetは、ペット向けの遠隔診療プラットフォームを提供し、大型の資金調達を経てアメリカ市場に進出しています。これらは一例に過ぎず、スタートアップ企業を含む多くの企業が獣医によるオンライン診療のサービスを開始しています。
日本でも2024年にペットのオンライン診療に関する政府の指針が策定され、今後は獣医へのアクセスがより容易になっていくと思われます。これらのサービスにより、飼い主はペットのストレスに不安を感じる際、より手軽に獣医に相談することが可能となっています。今後も、テクノロジーの進化とともに、ペットのストレスチェックに関するサービスはさらに多様化し、充実していくことが期待されます。
まとめ
ペットを家族の一員と考える文化が根強いアメリカでは、飼い主の行動観察に加えて獣医師による診察も含めたペットのストレスチェックがより重要視されるようになっています。
特に、テクノロジーの進化により、ペットテック市場が急成長し、ウェアラブルデバイスやオンライン診療サービスといった新しい手法が普及しています。これらの取り組みによって、飼い主がペットの健康や福祉により積極的に関与できる環境が整備されつつあります。
日本でも類似の動きが見られる中、アメリカの事例は今後の参考となるでしょう。ペットのストレスチェックのさらなる普及と進化により、ペットと飼い主のウェルビーイングが向上することが期待されます。
執筆者:SShima
参考記事
- “The American Pet Products Association (APPA) Releases 2024 Dog and Cat Owner Insight Report”, American Pet Products Association
- “Dogs and health: A lower risk for heart disease-related death?”, Harvard Health
- “New AVMA research finds pet owners overwhelmingly prefer veterinarian-led care for their pets”, AVMA
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