韓国「犬食終息法」全面施行まであと5カ月|農場の82%が閉鎖、残された犬たちはどこへ行くのか
韓国で犬の食用を終わらせる法律、通称「犬食終息法」の全面施行が2027年2月7日に迫っています。2024年2月の制定から3年の猶予期間を置き、その日から食用目的で犬を飼育・繁殖・屠殺・流通・販売することが刑罰つきで禁止されます。
進み方は当初の想定より速く、2026年5月時点で犬農場1,537カ所のうち1,265カ所(82%)が閉鎖しました。ただ、「農場が閉まった」と「犬が救われた」は同じではありません。
そして本日2026年9月22日は、この制度の節目です。農場主への支援金は「早く閉めるほど手厚い」6段階で設計されており、今日から最も低い最終段階に入りました。この記事では、法律の中身、数字で見た進捗、補償金という仕組みの働き、そして残された犬たちの行き先という「見えにくい部分」を、一次情報にもとづいて整理します。
目次
何が禁止され、いつから罰則が始まるのか
法律の正式名称は「犬の食用目的の飼育・屠殺および流通等の終息に関する特別法」(法律第20195号)です。2024年1月9日に国会を通過し、2月6日に公布されました。骨格は次の通りです。
- 第5条(禁止行為):食用目的で犬を飼育・繁殖・屠殺すること、犬や犬を原料とする食品を流通・販売することの禁止。施行日は2027年2月7日
- 第17条(罰則):屠殺は3年以下の懲役または3,000万ウォン以下の罰金、飼育・繁殖と流通・販売は2年以下の懲役または2,000万ウォン以下の罰金。同じく2027年2月7日施行
- 第9条(新規運営の禁止):農場・屠殺・流通・飲食店の新設や増設は、公布日(2024年2月6日)から即時禁止
- 第10条(届出と履行計画書):既存事業者は公布から3カ月以内に届出、6カ月以内に「閉業または転業の履行計画書」を提出。行政は半期に1回以上点検する
- 第11条・第12条(支援):届出をした事業者に対し、国と自治体は閉業・転業の支援を行わなければならない(義務規定)
- 第14条(履行措置命令):計画を守らない事業者には命令、従わなければ閉鎖命令や設備の封印まで可能
「3年後に禁止する」と宣言するだけの法律ではありません。新規参入を即時に止め、全事業者を届け出させ、閉め方の計画を書かせ、支援を義務づけ、守らない者には段階的に強制する。禁止と支援と点検が一つの法律に組み込まれています。
数字で見る「終息」の進み方|2年で農場の8割が閉鎖
韓国農林畜産食品部(以下、農食品部)が2024年9月26日に発表した「犬食終息基本計画」によると、届出のあった関連事業者は5,898カ所(犬農場1,537、屠殺業者221、流通業者1,788、飲食店2,352)。農場で飼育されていた食用目的の犬は、2024年8月時点で約46万6,000頭でした。
その後の推移を、農食品部の発表で並べます。
- 2025年8月14日発表:施行1年で1,072農場(70%)が閉鎖。削減された犬は34万5,590頭(基準46万8,000頭の74%)
- 2025年12月28日発表:1,204農場(78%)が閉鎖。削減された犬は39万3,857頭(84%)。残る333農場の飼育頭数は3万6,722頭と報じられています
- 2026年5月時点:1,265農場(82%)が閉鎖。残る農場は272カ所、飼育頭数は「2万〜3万頭程度」と報じられています
46万頭以上いた犬は、約2年で9割以上減りました。この速度は政府が2024年に立てた計画を大きく上回っています。理由は、次の「補償の設計」にあります。
「早く閉めるほど手厚い」補償の設計|今日から最終段階
基本計画の柱は、農場主に支払われる「閉業履行促進支援金」です。特徴は、閉める時期が早いほど1頭あたりの単価が高いことです。
- 第1段階:2024年8月7日〜2025年2月6日 → 60万ウォン(2年分)
- 第2段階:2025年2月7日〜8月6日 → 52.5万ウォン
- 第3段階:2025年8月7日〜12月21日 → 45万ウォン
- 第4段階:2025年12月22日〜2026年5月6日 → 37.5万ウォン
- 第5段階:2026年5月7日〜9月21日 → 30万ウォン
- 第6段階:2026年9月22日〜2027年2月6日 → 22.5万ウォン(0.75年分)
根拠は、農場の1頭あたり年間純利益を約30万ウォンと推計し、「早く閉めた分の年数」を掛けるという考え方です。最初に閉めれば2年分、最後まで残れば9カ月分。今日、2026年9月22日から、この最も低い単価の期間に入りました。2025年の予算は国費・地方費あわせて約1,095億ウォン、うち562億ウォンがこの支援金でした。
この設計は、農場主の行動を実際に動かしました。2024年8月に各農場が提出した履行計画書では、最終の第6段階まで残るとした農場が507カ所、その飼育頭数は16万9,908頭。全農場の3分の1が「猶予期間いっぱいまで営業する」と申告していました。ところが2025年12月時点で、この507農場のうち52%(264農場)がすでに閉鎖しています。農食品部はこれを「犬食終息は後戻りできない課題だという認識の広がりと、早期閉業を促す政策効果が重なった結果」と分析しています(2025年8月14日)。
最後まで粘れば単価は下がり、点検は厳しくなり、2027年2月以降は犬を売る先がなくなる。早く閉めれば1頭あたりの金額は多い。「農場主の善意」ではなく「設計」が時期を動かした、ということです。
残る272農場と、「支援の対象外」という問題
順調に見える数字の裏で、残った側の中身は難しくなっています。支援金には条件があり、家畜糞尿法上の排出施設を届け出ていない農場や建築法違反の無許可施設は支援の対象外です。農食品部は2026年5月、残る272農場について「飼育規模の大きい農場と、支援金の支給対象から除外された農場が含まれており、よりきめ細かい現場管理が必要」と説明しています。
無許可施設に公金を払わないのは当然の判断ですが、その結果、「支援金をもらえないから閉めるインセンティブがない」農場が最後に残る構造になります。農食品部が示した対応は次の通りです。
- 2026年6〜8月:閉鎖済み農場も含めて、新規・非公然の飼育がないか特別点検。違反があれば支援金の返還
- 支援金対象外の農場には抜き打ち点検。自治体・住民からの通報を活かした常時管理体制
- 2026年9月以降:履行計画を守らない農場に是正措置、従わない場合は施設の閉鎖命令も推進
今日から始まった最終段階は、支援金が最も低くなる期間であると同時に、行政が「支援」から「強制」へ重心を移す期間でもあります。
犬たちはどこへ行くのか|収容力という見えない壁
ここまでの数字はすべて「農場」と「飼育頭数の削減」でした。では、削減された39万頭以上の犬は、どこへ行ったのでしょうか。
農食品部は2025年8月、「業界はこれまでの慣行と、2027年2月までの国内外への譲渡、番犬などとしての分譲、所有権放棄後の自治体への移管など、さまざまな方法を見つけて自律的に閉業している」と説明しています。「これまでの慣行」とは、禁止前に食肉として流通させることを含みます。猶予期間中、それは違法ではありません。
所有権を放棄された犬については、基本計画にこう書かれています。
やむを得ず発生した残余の犬は、自治体が所有権を引き受けて保護・管理する。自治体の動物保護センターに収容余力がない場合は、所有権は自治体が保有したまま、暫定的に農場で動物保護法にもとづき保護・管理する。
収容力の不足は、政府文書自体が認めている前提です。基本計画は自治体直営の動物保護センターを2023年の71カ所から2024年に84カ所へ増やすとしていますが、数十万頭という規模に対して桁が合いません。
民間からも同じ指摘があります。Humane World for Animals Korea(旧HSI Korea)の担当者は2026年1月、公営シェルターは「文字通り、いま満杯だ」と述べ、政府は農場主に「猶予期間中に犬を処理するように」と通知したにとどまり、犬の福祉を確保するガイドラインを出していないと批判しました。同団体は2015年以降に約2,800頭を救出してきましたが、「閉鎖される農場の犬のうち、救出され譲渡される機会を得るのは比較的少数にとどまる」とも認めています。
数十万頭の削減のうち、どれだけが譲渡され、どれだけが食肉として流通し、どれだけが自治体に移管されたのか。この内訳を示す公的な統計は、現時点で公表されていません。「農場の閉鎖率」は毎回発表される一方で、「犬の行き先」は数字になっていない。政府自身が「農場に食用目的の犬が1頭も残らなくなって初めて事実上の終息」と述べているように、「農場ゼロ」と「犬ゼロ」は別の話です。
日本から見ると、何が違うのか
日本には犬の食用を禁じる法律はありません。ただ、ここで比べたいのは犬食そのものより、「ある産業をやめさせる」ときのやり方です。
禁止と補償を一つの法律に入れた
韓国は禁止(第5条)と支援の義務(第11条・第12条)を同じ法律に置き、支援には閉める時期を早める方向の勾配をつけました。日本の動物愛護管理法では、2021年施行の繁殖業者への数値規制が既存業者に段階的な経過措置を置きましたが、廃業や規模縮小への補償金の仕組みはありません。「やめる側の経済合理性」を制度に組み込むかどうかは、大きな違いです。
「犬の行き先」は、どちらの国でも見えにくい
韓国は全事業者を届け出させ、段階ごとに「計画/実績」の表を公表してきました。日本でも環境省が自治体の引取り数・殺処分数(2024年度は犬猫あわせて引取り3万9,409頭、殺処分6,830頭)を毎年公表しています。他方で、繁殖業者が減ったとき、飼育されていた犬猫がどこへ行ったのかは、どちらの国でも同じ精度では見えていません。閉鎖率という分かりやすい指標を追うと、その裏の「動物がどう処理されたか」が数字にならないまま進む。これは日本でも起きうる構造です。
まとめ
韓国の犬食終息法は、2024年2月の公布から3年の猶予を置き、2027年2月7日に全面施行されます。2026年5月時点で農場の82%が閉鎖し、46万頭以上いた犬は2万〜3万頭まで減りました。速度を決めたのは、「早く閉めるほど手厚い」6段階の補償金と、届出・計画書・点検を組み合わせた仕組みでした。本日2026年9月22日、その補償は最も低い最終段階に入り、行政の重心は支援から強制へ移っていきます。
残るのは、支援の対象外となった農場と、行き先の統計が存在しない数十万頭の犬の記録です。産業をやめさせるとき、動かしたのは善意や世論ではなく設計でした。そして設計の結果を評価するには、農場の数だけでなく、犬の行き先が数字になっている必要があります。残り5カ月、韓国がその数字をどこまで公表するかが、この政策の本当の成果を測るものさしになるはずです。
(韓国の動物保護の現場は韓国で話題の動物福祉TNR活動とは、「愛護」と「福祉」の視点の違いは動物愛護と動物福祉の違いは?、EUが2026年に統一した犬猫の福祉ルールはEUが初めて犬猫の福祉ルールを統一もあわせてお読みください)
(2026年9月 執筆。ウォン建ての金額は原資料のまま記載しています。農場数・頭数は韓国農林畜産食品部の発表資料と、同部の集計を引用した現地報道にもとづいています)
参考記事
- 韓国 国家法令情報センター:개의 식용 목적의 사육ㆍ도살 및 유통 등 종식에 관한 특별법(法律第20195号、2024年2月6日制定)
- 韓国農林畜産食品部:개식용종식 기본계획(犬食終息基本計画、2024年10月・PDF)
- 大韓民国政策ブリーフィング:「개식용종식 기본계획」発表ブリーフィング(2024年9月26日)
- 韓国農林畜産食品部 報道資料:개식용종식호, 조기폐업 향해 쾌속 운항중(2025年8月14日)
- 韓国農林畜産食品部 報道資料:개사육농장 10곳 중 8곳 문 닫았다(2025年12月28日)
- CBSノーカットニュース:개식용종식법 시행에도 남아 있는 육견 사육 농가는?(2026年5月14日)
- マネートゥデイ:올해 마지막 개고기 복날…남은 개농장 ‘18%’ 종식이 관건(2026年7月1日)
- The Korea Times: Fate of half million dogs unclear as dog meat ban nears(2026年1月22日)
- Humane World for Animals: Flight of freedom to Canada for 16 dogs rescued from a dog meat farm(2026年1月21日)
- 環境省:犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況(令和6年度)


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