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ベトナムで犬肉は禁止されているのか|国の禁止法はなく、狂犬病の死者は2025年に77人、2026年8月から口輪・リードに罰金

ベトナムの古い町並みの歩道で、首輪をつけて寝そべる茶色の犬

ベトナムの街を歩くと、リードをつけていない犬をよく見かけます。路地の食堂の前で寝ていたり、バイクの間をすり抜けていったり。一方で、「ベトナムでは犬を食べる」という話も、日本でよく知られています。

では、ベトナムで犬肉は禁止されているのでしょうか。結論から言うと、2026年11月の時点で、国として犬肉の売買や食用を禁じる法律はありません。変わりつつあるのは、法律の禁止ではなく、狂犬病対策を入り口にした「犬の管理」の仕組みです。

この記事では、ベトナムの法令と政府・自治体の発表をもとに、犬肉をめぐる自治体の動き、狂犬病の数字、飼い主に課されているルールを整理します。

国として犬肉を禁じる法律はない

ベトナムの畜産法(法律32/2018/QH14、2020年1月1日施行)には、犬と猫の飼育について定めた条文があります。第66条「犬・猫の飼育の管理」です。

ただし、そこに書かれているのは、狂犬病の予防接種を受けさせること、狂犬病が疑われたら地方の役所に届け出ること、人やほかの動物の安全を守ること、犬猫が人を襲って損害を与えたら賠償することです。犬猫を食べること自体を禁じる条文ではありません。

同じ法律の第69条は、動物を飼う人に、適した飼育場所、清潔な餌と水、病気の予防と治療、そして「たたいたり、虐待したりしないこと」を求めています。違反には、政令14/2021/ND-CP(2021年4月20日施行)第29条で100万〜300万ドンの罰金が定められています。

つまり、ベトナムの法律が向き合っているのは「食べるかどうか」ではなく、「どう扱うか」と「病気をどう防ぐか」です。韓国が2024年に犬食終息法を作り、食用の飼育と流通そのものを終わらせようとしているのとは、進め方が違います。

ハノイの呼びかけ(2018年)とホイアンの宣言(2021年)

国の禁止がない中で動いてきたのは、自治体です。

2018年9月、首都ハノイの人民委員会は、犬猫の肉の処理・販売・消費の管理を強めるよう求める文書を出しました。理由として挙げたのは、食品の安全、動物福祉、狂犬病などの病気のリスク、そして外国人観光客に与える印象です。当時の報道によると、ハノイには約49万頭の犬猫がいて、犬猫の肉を扱う施設は1,000以上ありました。この年はそれまでに市内で3人が狂犬病で亡くなっていました。

ただ、これは禁止ではなく、市民に消費を減らすよう促すものでした。

2021年12月10日には、中部の観光都市ホイアンが、国際動物福祉団体フォーポーズと覚書を結びました。犬猫の肉の取引をなくすことを目指し、狂犬病ワクチンの接種などに取り組むという2年間の合意です。フォーポーズは「ベトナムで初めての、犬猫の肉のない観光都市」と発表しています。

2023年7月には、南部のドンナイ省がヒューメイン・ソサエティ・インターナショナル(HSI)と3年間の合意を結びました。内容は、狂犬病ワクチンの接種、犬猫の肉を食べないよう呼びかける啓発、違法な運搬の取り締まり、犬肉業者の転業の支援などです。

いずれも、国の法律ではなく、地方と団体の合意です。なお、ベトナムで食用に殺される犬は年に約500万頭、猫は約100万頭という数字がよく引用されますが、これは動物保護団体の推計で、政府の統計ではありません。

狂犬病の死者は2025年に77人

犬肉の問題がベトナムで「衛生」の話として語られるのは、狂犬病がいまも身近な病気だからです。

期間狂犬病による死者
2024年1〜10月77人
2025年1〜10月67人
2025年(通年)77人
2026年1月〜5月ごろ30人

出典:保健省 予防局の報告(国会系紙「人民代表」2025年11月14日)、ダクラク省人民委員会の公文書(2026年5月。畜産獣医局の集計を引用)。

同じ報告では、ベトナムでは毎年70〜90人が狂犬病で亡くなっているとされ、中部高原の各省で死者が多い状態が続いています。ワクチンと抗血清の購入だけで、年に1兆ドンを超える費用がかかっているという試算もあります。

犬肉との関わりを示すデータもあります。HSIによると、2016〜2017年にハノイの小規模な処理場で犬の脳を調べた研究では、ほぼ100頭に1頭が狂犬病に感染していました。処理の際に感染する危険があるため、犬肉の取引は狂犬病対策の中でも問題とされています。

犬は700万頭超、ワクチン接種は56%

保健省と農業環境省の会議の報告(2025年11月)によると、2024〜2025年のベトナムの犬は700万頭を超え、300万以上の世帯で飼われています。

犬猫の狂犬病ワクチンの接種率は56%あまり。2022〜2023年の平均よりは上がったものの、まだ十分ではないとされています。

国は「狂犬病予防・対策国家プログラム 2022〜2030年」を定め、2030年までに狂犬病で亡くなる人をゼロにする目標を掲げています。犬猫の接種率の目標は、2026〜2030年は対象の80%以上です。

報告は、課題もはっきり書いています。犬猫の管理がゆるい。狂犬病になった犬の多くはワクチンを打っていない。放し飼いで、つながず、口輪もない犬が、特に農村や山間部で多い。放し飼いの犬を捕まえる専門の班がない地域もある。

街で見かける「自由な犬」は、のどかな風景であると同時に、行政の側から見れば、接種と管理が届いていない犬でもあります。

飼い主のルール:接種・登録・口輪とリード

ベトナムで犬を飼う人に求められている主なルールは、次のとおりです。

  • 狂犬病の予防接種:畜産法第66条で義務。接種の対象と時期は獣医の法令で決まる
  • 飼育の登録:農業農村開発省の通達07/2016(付録15)で、都市部や人の多い地域では、犬の飼育を社(村や町にあたる最小の行政単位)の人民委員会に登録する
  • 人の安全:公共の場では口輪をつけ、リードでつないで人が連れて歩く(違反は罰金。次の章)
  • 損害の賠償:犬猫が人を襲って損害を与えたら、飼い主が賠償する(畜産法第66条)

ただ、登録や接種がどこまで守られているかは、地域によって大きく違います。たとえばダクラク省は2026年5月の文書で、すべての飼い主に登録と「敷地内で飼う」という誓約書の提出を求め、公共の場で管理されていない犬は規定に沿って処分するよう指示しました。ルールはあっても、それを地方が改めて徹底させなければならない状態だということです。

2026年8月から新しい罰金のルール

2026年6月11日、政府は獣医の分野の行政罰を定める政令204/2026/ND-CPを出しました。報道によると、施行は2026年8月1日です。

犬に関わるのは第8条2項で、次の行為に100万〜200万ドンの罰金を科します。

  • 接種が義務になっている動物に、狂犬病の予防接種を受けさせないこと
  • 公共の場で、犬に口輪をつけない、またはリードでつながず人が連れていないこと

罰金の額を決めるだけでは、行動は変わりません。罰金を科すには、誰がどの犬を飼っているかを役所が把握していることが前提になります。登録と接種の記録が積み上がって、はじめてルールが働く。ベトナムの動きは、その土台づくりの途中にあると言えます。

日本との違い

日本では、狂犬病予防法で、犬の登録と年1回の予防注射が飼い主に義務づけられています。厚生労働省によると、2024年度末の登録頭数は604万8,725頭、予防注射を受けたのは428万1,702頭で、注射率は70.8%でした。

日本国内では、人は1956年、動物は1957年の猫を最後に、狂犬病は発生していません。海外でかまれて帰国後に発症した例が、1970年、2006年(2例)、2020年にあるだけです。

ベトナム日本
狂犬病毎年70〜90人が死亡(2025年は77人)国内では1956年(人)・1957年(動物)を最後に発生なし
犬の数700万頭超(2024〜2025年)登録は約605万頭(2024年度末)
接種率犬猫で56%あまり(2024〜2025年)70.8%(2024年度、登録犬)
登録都市部などで社に登録全国で市区町村に登録

日本の注射率70.8%は、登録された犬の中での割合です。登録されていない犬は数に入っていません。数字が「どこまでを数えているか」は、どちらの国でも気をつけて読む必要があります。

まとめ

  • 2026年11月の時点で、ベトナムには犬肉の売買や食用を国として禁じる法律はない
  • ハノイは2018年に消費を減らすよう呼びかけ、ホイアン(2021年)とドンナイ省(2023年)は動物保護団体と合意を結んだ
  • 狂犬病の死者は2025年に77人。国は2030年に死者ゼロを目指す
  • 犬は700万頭を超え、犬猫の接種率は56%あまり。目標は2026〜2030年に80%以上
  • 2026年8月1日施行の政令204/2026で、接種をしない・口輪やリードなしで公共の場に出すことに100万〜200万ドンの罰金

「犬を食べる国」という見方だけでは、いまのベトナムで起きていることは見えてきません。禁止の法律が一気にできるより先に、接種と登録という地味な仕組みが少しずつ広がっています。その仕組みが、放し飼いの犬たちの暮らしと、犬肉の取引の両方を、少しずつ変えていくのかもしれません。

あわせて読みたい:

(2026年11月 執筆。法令は2026年11月時点の内容、狂犬病の数字はベトナム保健省・畜産獣医局の発表、日本の数字は厚生労働省の統計にもとづく。ドンの円換算は為替で変わるため記していない)

参考記事

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