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台湾の「殺処分ゼロ」はどうなったのか|2017年施行から9年、収容所の数字と遊蕩犬14万頭の現実

台湾では2017年2月から、全国の公立動物収容所で「引き取り手のない犬猫を、期限が来たら殺処分する」ことが法律で禁じられました。いわゆる「零撲殺(殺処分ゼロ)」政策です。

日本でも「殺処分ゼロ」は自治体の目標としてよく使われる言葉ですが、台湾はそれを法律で一斉に実施した、アジアでも珍しい例です。施行から9年がたち、台湾政府の統計には、その結果がかなりはっきり表れています。

結論を先に言うと、公立収容所での殺処分は2008年の年間約8万5,000頭から、2025年には664頭まで減りました。一方で、街や山にいる「遊蕩犬(飼い主のいない犬)」は2024年の推計で約14万頭おり、収容所の外の問題は残っています。この記事では、台湾農業部(日本の農林水産省にあたる省庁)の公表データをもとに、「ゼロ」の中身を数字で見ていきます。

台湾の「零撲殺」とは|動物保護法第12条の改正

台湾の動物保護法第12条は、「動物をみだりに殺してはならない」と定めたうえで、例外を列挙しています。

改正前は、この例外の中に「収容所に収容され、通知または公告から12日を過ぎても引き取り手がない動物」が入っていました。台湾で「十二夜(12日の夜)」と呼ばれた規定です。収容から12日たつと、健康な犬猫でも殺処分できました。

2015年の法改正で、この規定は削除されました。ただし、すぐに実施すると収容所があふれるため、2年間の猶予期間が置かれ、2017年2月から全国で「期限による殺処分」が止まりました。

改正後に収容所で殺処分(台湾の用語では「人道処理」)が認められるのは、次のような場合に限られます。

  • 獣医師の検査で、法定伝染病や治る見込みのない重い病気がある
  • 環境衛生に深刻な影響がある
  • そのほか緊急の事情で、人や動物の健康、公共の安全に重大な影響がある

つまり「ゼロ」とは、「引き取り手がいないこと」を理由にした殺処分をゼロにするという意味です。病気などを理由にした安楽死まで禁じたわけではありません。

なお、同じ第12条では、犬や猫を食用に殺すこと、その肉を売買・食用・所持することも禁じられています。韓国が2027年の全面禁止に向けて進めている犬食の問題を、台湾は先に条文で終わらせた形です(韓国の状況は韓国「犬食終息法」全面施行まであと5カ月で解説しています)。

年表で見る、殺処分ゼロまでの流れ

  • 2008年:全国の公立収容所の収容数は約12万頭、うち約8万5,000頭が殺処分(収容数の約7割)
  • 2015年2月:動物保護法の改正を公布。「12日ルール」の削除が決まり、2年の猶予期間に入る
  • 2014〜2016年:収容所の施設改善に約4億6,800万台湾ドル(2014〜2016年)、職員の増員に約2億2,600万台湾ドル(2015〜2016年)を投入(農業部の公表)
  • 2016年:犬猫の不妊去勢手術は年間15万5,175頭と、前年から42%増加
  • 2017年2月:全国の公立収容所で「期限による殺処分」が停止
  • 2018年〜:2年ごとに全国の遊蕩犬の数を推計する調査を開始
  • 2024年12月:猫をペット登録の義務対象に加える改正を公告(1年の猶予)
  • 2026年1月:猫の登録義務について、取り締まりを開始

法律を変えてから2年間、施設と人員に予算をつけ、手術の数を増やしてから施行したことがわかります。「ゼロ」は宣言だけで始まったわけではありませんでした。

収容所の数字はどう変わったか

台湾農業部は、全国の公立収容所の収容数・譲渡数・殺処分数・所内死亡数を、県市別・月別のオープンデータで公開しています。これを年ごとに合計すると、次のようになります。

  • 2008年:収容 120,337頭/殺処分 84,854頭(収容数の約71%)
  • 2016年:収容 64,276頭/殺処分 7,960頭(約12%)
  • 2017年:収容 43,438頭/殺処分 763頭(約2%)
  • 2025年:収容 27,437頭/殺処分 664頭(約2%)/所内死亡 2,294頭(約8%)

見えてくるのは、次の3点です。

1つ目は、殺処分が施行前から大きく減っていたことです。2008年から2016年の間に、殺処分はすでに10分の1以下になっていました。2017年は、減り続けてきた流れの「仕上げ」だったともいえます。

2つ目は、収容数そのものが減ったことです。2008年の約12万頭から、2025年は約2万7,000頭と、4分の1以下になりました。殺処分が減ったのは、譲渡が増えたからだけではなく、収容所に入ってくる動物が減ったからでもあります。

3つ目は、「所内死亡」が別に数えられていることです。2025年は、殺処分664頭に対し、収容中に病気などで死んだ動物が2,294頭いました。殺処分の数だけを見ると、収容所で命を落とした動物の数は小さく見えてしまいます。

なお、2023年のオープンデータは一部の月が欠けているため、ここでは使っていません。また譲渡数は、年によって集計の仕方が変わっているとみられ、年ごとの単純な比較には向きません。

「ゼロ」なのに殺処分が残る理由

2025年にも664頭の殺処分があったのは、前述の例外(重い病気や伝染病など)にあたる場合があるためです。「零撲殺」は法律の上でも、例外を残した制度として設計されています。

気になるのは、この数が近年増えていることです。2021年は82頭でしたが、2025年は664頭、2026年は1〜8月だけで612頭になっています。公開データには理由の内訳がないため、何が増えているのかは統計からは判断できません。

ここで大事なのは、「ゼロ」という言葉と実際の数字を分けて見ることです。ゼロを掲げた政策でも、数字を公開しているからこそ、こうした変化に気づくことができます。「ゼロ」かどうかより、「何が数えられ、何が数えられていないか」を見るほうが、実態に近づけます。

収容所の外で起きていたこと|遊蕩犬14万頭

収容数が減った一方で、街や山にいる犬はどうなったのでしょうか。台湾農業部は2018年から、世界保健機関(WHO)の犬の個体数管理の指針にある方法で、全国の遊蕩犬の数を2年ごとに推計しています。

  • 2018年:146,773頭
  • 2020年:155,869頭
  • 2022年:159,697頭
  • 2024年:141,584頭(人口100人あたり0.605頭)

施行後しばらくは、遊蕩犬が少しずつ増えていました。台湾の調査報道メディア「報導者」は2023年、収容所が「一時的な保護施設」ではなく「終生飼養の場所」になって満杯が続いたこと、5年間で約1万頭が民間の施設に移されたこと、遊蕩犬がセンザンコウなどの野生動物を襲う被害が問題になっていることを報じています。

2024年の推計では、初めて減少に転じました。ただし農業部自身も、前回との差は「統計的に有意な差にはまだ達していない」と説明しています。減ったと言い切るには、次回以降の調査を待つ必要があります。

収容所の中の数字が良くなることと、社会全体で飼い主のいない犬が減ることは、別の問題です。収容所の入口を狭めれば、中の数字は良くなります。そのぶん外にいる犬が増えていないかを確かめるために、収容所の外を数える調査が欠かせません。

いま台湾が力を入れていること|登録・不妊去勢・猫の登録義務化

農業部は、遊蕩犬の問題の根は「飼い主の責任」にあるとして、元を断つ対策を強めています。2026年4月に公表された2025年の飼育実態調査では、次の数字が出ています。

  • 家庭で飼われている犬:約146万頭、猫:約174万頭(猫が犬を上回った)
  • 犬の登録率:69.5%(2021年)→ 77.2%(2025年)
  • 犬の不妊去勢率:66.41%(2021年)→ 71.75%(2025年)
  • 猫の登録率:58.45%(2023年)→ 66.48%(2025年)

猫は2026年1月から登録が義務になりました。ただ調査では、猫の登録義務を知らない飼い主もまだ多いとされています。

また農業部は2025年から、人と犬のトラブルや野生動物の被害が多い地域を起点に、周辺へ同心円状に広げていく「高強度の不妊去勢」を県市に求めています。捨てない、放し飼いにしない、不妊去勢をする。収容所の出口(譲渡)ではなく、入口の手前(飼い主)に手を打つ方向です。

日本との違い

日本の環境省の統計では、2024年度に全国の自治体が引き取った犬猫は39,409頭、殺処分は6,830頭(犬1,964頭、猫4,866頭)でした。

数字を比べるときは、数え方の違いに注意が必要です。

  • 日本:「殺処分数」に、譲渡に適さないと判断した個体の処分だけでなく、引き取った後の病気などによる死亡(2024年度は2,092頭)も含めて数えている
  • 台湾:「人道処理(殺処分)」と「所内死亡」を分けて数えている

このため、台湾の「664頭」と日本の「6,830頭」を並べて単純に比べることはできません。台湾の所内死亡を足すと、2025年は約3,000頭になります。

制度の面では、違いがはっきりしています。

  • ルールの根拠:台湾は法律で「期限による殺処分」を禁じた。日本は、殺処分を減らすことを目標として掲げ、進め方は自治体ごとに異なる
  • 収容所の外の把握:台湾は遊蕩犬の数を国が2年ごとに推計し、公表している。日本では、全国の野犬や飼い主のいない猫の数を国が定期的に推計した統計は見当たらない
  • 飼い主側の指標:台湾は犬の登録率・不妊去勢率を定期調査で追っている。日本は2022年から、販売される犬猫へのマイクロチップ装着を義務化した

「殺処分ゼロ」をめざすとき、収容所の中の数字だけを追うと、引き取りを断ることで数字が良く見えてしまう危険があります。台湾の経験は、中の数字と外の数字をセットで見ることの大切さを示しています。アメリカでも同じ議論があり、「2025年までに全米ノーキル」は達成されたのかで紹介しています。

まとめ

  • 台湾は2015年の法改正で「12日ルール」を削除し、2年の準備期間を経て、2017年2月から公立収容所の「期限による殺処分」を止めた
  • 殺処分は2008年の約8万5,000頭から、2025年には664頭まで減った。収容数も約12万頭から約2万7,000頭へ減った
  • 一方で、所内死亡(2025年は2,294頭)は別に数えられており、例外による殺処分も近年は増えている
  • 遊蕩犬は2024年の推計で約14万頭。施行後しばらく増えたあと、初めて減少に転じた
  • いまの重点は、登録・不妊去勢・猫の登録義務化など、飼い主の側の対策

台湾の9年間が教えてくれるのは、「ゼロ」は到達点ではなく、数え方と仕組みの問題だということです。法律で殺処分を止めても、動物は収容所の外で生き続けます。その外側まで数え、公開し続けているところに、台湾の制度のいちばんの強みがあるのかもしれません。

動物愛護と動物福祉の考え方の違いについては、動物愛護と動物福祉の違いは?もあわせてご覧ください。

(2026年9月 執筆。台湾の収容所の数字は、台湾農業部のオープンデータ「全國公立動物收容所收容處理情形統計表」を年ごとに合計したものです。所内死亡を含む各項目の定義は同データにもとづきます)

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