動物を苦しめてきた仕組みを終わらせる、と決めることは、ひとつの区切りです。けれど、その日を境に動物が消えるわけではありません。残された犬や馬、そこで働いていた人たちを、誰が、いつまでに、どう引き受けるのか。終わらせ方が雑だと、決定そのものが別の苦しみを生みます。
2026年10月に世界で報じられた動物福祉のニュースには、この「終わらせ方」を問うものが目立ちました。今月も「その仕組みは続くのか」という視点で、5本を整理します。
韓国:犬肉農場の87%が閉鎖。残る約7,600頭をどう守るか
韓国の農林畜産食品部は2026年10月11日、2024年2月の時点で登録されていた犬肉農場1,537か所のうち、9月21日までに1,339か所(87%)が閉鎖したと発表しました。2027年2月7日に犬の食用目的の飼育・処分・流通が全面禁止となるのを前に、閉鎖は政府の想定より30%早いペースで進んでいます。
農場で飼われていた犬は、2024年8月に約46万8,000頭いました。それがいま、営業を続ける198か所で約7,600頭まで減っています。政府は11月から12月にかけて自治体と特別点検を行い、閉鎖した農場がひそかに飼育を再開していないか、残る農場が閉鎖計画を守っているかを確認するとしています。
課題は、禁止後も残る約7,600頭です。政府は自治体に対し、犬種や大きさ、年齢、人への慣れ具合に応じた保護策をつくるよう求めています。10月1日には、動物保護団体Humane World for Animalsが韓国で最後の大規模な救出を終えたと報告し、康津(カンジン)の農場から70頭あまりをアメリカとカナダへ送り出しました。
閉鎖の割合が上がるほど、「数字に入らない残りの犬」の行き先が問われます。
(全面施行までの経緯は韓国「犬食終息法」全面施行まであと5カ月で解説しています)
デンマーク:かつての世界最大の産地が、ミンク養殖を終わらせる
デンマーク政府は2026年10月23日、ミンクの養殖を続けるための特例をEUに申請しないと発表しました。EUは2025年にアメリカミンクを侵略的外来種のリストに加え、2027年8月7日から飼育と繁殖を禁止します。加盟国は「やむを得ない公益上の理由」があれば欧州委員会に例外を申請できますが、デンマークはその道を選びませんでした。業者が事業をたたむための移行期間は2029年8月までです。
デンマークは新型コロナの流行前、世界最大のミンク毛皮の輸出国でした。2020年に約1,500万頭の殺処分を命じたあと、業界はほとんど戻らず、2026年8月時点で残る農場は7か所でした。大臣は「長く続いてきたというだけで、産業を続けるべきではない」と述べています。
判断の根拠には、欧州食品安全機関(EFSA)の科学的意見もありました。いまのケージ飼育を前提にするかぎり、意味のある福祉の改善はできない、という結論です。改善できないなら終わらせる。そのうえで、終わらせるまでに2年の猶予を置く。決定と移行期間がセットになっている点に注目したいところです。
一方、フィンランドはすでに例外を申請しています。EU全体で見れば、終わりはまだ先です。
アメリカ・ニューヨーク:セントラルパークの観光馬車を2028年に廃止へ
ニューヨーク市議会は2026年10月22日、馬車の営業を禁じる条例案(Intro 943)を可決しました。6月にセントラルパークで暴走した馬車から18歳の観光客が投げ出されて亡くなった事故を受けたもので、その名前から「ロマンチ法」とも呼ばれています。市長が署名すれば、2028年6月に禁止が始まります。
この条例は、馬と人の両方の「その後」に触れています。およそ200頭いる馬の所有者は、馬を食肉処理や他の馬車業者に売ることを禁じられます。約150人の御者については、市が2027年4月までに転職支援の計画をつくり、営業許可を持つ人への補償も検討するとしています。
ただ、御者を代表する労働組合は「職業相談や就職フェアでは生活は守れない」と反発し、法廷で争う構えです。動物保護団体は馬を保護施設で引退させるよう求め、受け入れ先を申し出ています。
禁止までの1年半あまりで、馬の引き取りと人の生活の再建が両立できるかどうかが、この条例の本当の評価になります。
アメリカ・ペンシルベニア州:実験に使われた犬猫に「その後」の道
ペンシルベニア州のシャピロ知事は2026年10月22日、通称「ビーグル法(S.B. 381)」に署名しました。研究や試験で使われた犬と猫について、使用が終わったあとに譲渡へつなげる道を設け、あわせて動物実験された化粧品の州内での販売を禁じる内容です。州議会では上下両院とも全会一致でした。
Humane World for Animalsによれば、実験後の犬猫の譲渡の道を設けた州はこれで18州目、動物実験化粧品の販売禁止は13州目です。連邦議会でも、犬猫を使う研究への公費支出を止めるCOMPACT法案が審議されています。
実験動物は、使われているあいだは記録に残っても、使用が終わると記録から消えてしまいがちです。「終わったあと」を法律に書き込むことで、その存在が見えるようになります。
(アメリカの動物保護の制度はアメリカの動物愛護事情で紹介しています)
インド:野良犬の不妊去勢、「外部の支援なしで続けられる」地域が出てきた
Humane World for Animalsのインド支部は2026年10月21日、2013年から続けてきた野良犬の不妊去勢とワクチン接種の取り組みをまとめた報告書を紹介しました。20以上の市町村で、不妊去勢手術は30万件、ワクチン接種は45万件を超えています。
報告で目を引くのは、デヘラードゥーンの例です。不妊去勢の実施率は91%を超え、野良犬の密度は40%下がりました。さらに2025年12月には、市内の297の地区が「外部の団体の支援がなくても、地域の野良犬の問題に対応できる」と表明しています。
団体はその意味を、問題がすべて消えたことではなく、住民やボランティアが知識と関係性と対応の仕組みを持てたこと、と説明しています。支援する側が手を引いても続く状態をつくれたかどうか。プロジェクトの「終わらせ方」としても、ひとつの手本になる数字です。
ただし、これは実施団体自身の報告です。第三者による検証が今後出てくるかも、あわせて見ていく必要があります。
まとめ:10月のニュースに共通していたこと
10月のニュースに共通していたのは、「終わらせると決めたあと、誰が何を引き受けるのか」という問いでした。
韓国は農場の87%を閉じる一方で、約7,600頭の行き先という宿題を抱えています。デンマークは改善できない仕組みを終わらせ、2年の移行期間を置きました。ニューヨークは馬の転売を禁じ、働く人の転職計画を条例に書き込みましたが、その中身はまだ争われています。ペンシルベニアは、実験が終わった犬猫の「その後」を法律で見えるようにしました。インドでは、支援する団体がいなくなっても回る地域が生まれつつあります。
禁止や廃止の決定は、ニュースの見出しになります。けれど、動物の暮らしを本当に左右するのは、その翌日からの引き受け方です。10月のニュースは、終わらせることもまた、続く仕組みとして設計しなければならないことを示しています。
(2026年11月 執筆。各項目の出典は参考記事をご覧ください)
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参考記事