「2025年までに全米ノーキル」は達成されたのか|アメリカの保護施設、目標年を終えて見えた数字と課題
アメリカの動物保護団体 Best Friends Animal Society は2016年、「2025年までに全米のシェルターをノーキル(殺処分ゼロ)にする」という目標を掲げました。その2025年が終わり、全米の集計が公表されています。
結論から書くと、目標は達成されていません。2025年も、全米のシェルターで約39万6,000頭の犬猫が命を落としています。一方で、2016年に100万頭を超えていた数字は大きく減り、ノーキルの基準を満たすシェルターは全体の68%になりました。
「達成できなかった」と「大きく進んだ」は、どちらも事実です。この記事では、2025年のデータを読みながら、ノーキルという目標が何を測り、何を測っていないのかを整理します。
目次
「2025年までにノーキル」とは何だったのか
Best Friends はユタ州に本部を置く、全米最大級の動物保護団体です。2016年、同団体は「2025年までに全米をノーキルにする」という目標を公表しました。当時、全米のシェルターで殺処分された犬猫は100万頭を超えていたとされています。
ここでいう「ノーキル」は、殺処分がまったくない状態ではありません。基準は救命率(セーブレート)90%です。
- 救命率:シェルターに入った犬猫のうち、譲渡・飼い主への返還・他団体への移送など「生きて出た」割合
- 90%という線:治療できない病気や、安全上どうしても譲渡できない行動の問題を抱える動物は、通常は全体の10%以下という考え方による
つまり目標は「全米のすべてのシェルターが救命率90%以上になること」でした。個々の団体の努力目標というより、国全体の数字を一つの物差しで追いかける試みです。
2025年の結果|68%のシェルターがノーキルに
Best Friends が2026年に公表した「2025 National Shelter Data Report」の主な数字は次のとおりです。対象は全米の約4,000のシェルターです。
- シェルターに入った犬猫:約470万頭(犬240万頭・猫230万頭)
- 全国の救命率:82.5%(2016年は71%)
- 殺処分された犬猫:約39万6,000頭(2024年から3万4,000頭減)
- ノーキル基準を満たしたシェルター:68%(過去最高)
- 救命率80%以上のシェルター:80%
- 州全体でノーキル:デラウェア、ニューハンプシャー、ロードアイランド、バーモントの4州
全国の救命率は90%に届いていません。一方で、3分の2を超えるシェルターはすでに基準を満たしています。Best Friends 自身も「まだすべての場所でノーキルに達してはいない」と認め、目標年を過ぎた現在も取り組みを続けています。
2016年から何が減ったのか
2016年から2025年までの変化を並べると、次のようになります。
- 2016年:殺処分100万頭超、救命率71%。目標を公表
- 2020年まで:犬猫とも、殺処分は毎年減り続けた
- 2020年以降:猫は安定して推移する一方、犬は改善が止まる
- 2024年:殺処分は約43万頭
- 2025年:約39万6,000頭。2020年以来、最大の減少幅
9年で半分以下になった計算です。2025年に減った要因として、報告書は他団体への移送の増加を挙げています。シェルターから民間団体などへ移送された犬猫は76万5,000頭で、前年より6万8,000頭増えました。行政のシェルターが抱えきれない動物を、民間の団体が引き受ける流れが強まっています。
一人の努力ではなく、団体どうしのつながり方が変わったことで数字が動いた。ここは「仕組み」で見るべきところです。
犬と猫で違う10年間
犬と猫では、この10年の動きがはっきり異なります。
猫は2025年の殺処分が約18万7,000頭で、記録上もっとも少なくなりました。2016年からの減少率は72.7%、救命率は82.9%です。捕獲して不妊去勢し、元の場所に戻す(TNVR)地域猫プログラムの広がりが背景にあるとされています。
犬は約20万9,000頭で、2025年に初めて前年より8.5%減りました。ただし2020年以降、犬は長く改善が止まっていました。報告書が「犬にとっての突破口の年」と書いているのは、裏を返せば、それまでの数年が厳しかったということです。
譲渡の割合にも差があります。2025年にシェルターへ入った犬のうち譲渡されたのは46%、猫は59%でした。譲渡されない犬はシェルターに長くとどまり、そのぶん新しく入ってくる犬の居場所が減ります。犬の譲渡がどこまで伸びるかが、今後の数字を左右します。
州ごとの差|テキサスとカリフォルニアに集中
2026年4月に公表された州別の集計では、差の大きさが目立ちます。ノーキルに達するまでにあと何頭を救う必要があるか、という数字です。
- テキサス州:あと7万8,800頭(9年連続で全米最多)。391施設のうち194施設はノーキル、州の救命率は77%
- カリフォルニア州:あと5万4,400頭
- ノースカロライナ州:あと3万6,900頭
- アイダホ・モンタナ・ノースダコタ・ワイオミング:それぞれ50頭未満
テキサスとカリフォルニアの2州だけで、全米の「救うべき残り」の約3分の1を占めます。いずれも前年比で10%以上改善していますが、人口が多く、収容数も多い州に課題が集中している構図は変わっていません。
カリフォルニアの事情は、petee の過去記事「カリフォルニア州の保護犬シェルターが満杯に」でも取り上げています。
数字の読み方|「39.6万頭」と「59.7万頭」
ここで注意したいのは、同じ2025年のアメリカについて、別の統計では別の数字が出ていることです。
ASPCA(米国動物虐待防止協会)が運営する全米統計「Shelter Animals Count」の2025年版では、シェルターで安楽死した犬猫は59万7,000頭、病死などを含む「生きて出られなかった」犬猫は75万7,000頭とされています。
39万6,000頭との差は、数え方の違いです。
- Best Friends の「殺処分数」:各シェルターが救命率90%に届くために、あと何頭救う必要があったか(ノーキルとの差)。報告書自身が「シェルターで亡くなったすべての動物を数えたものではない」と明記しています
- Shelter Animals Count:保護団体(レスキュー)も含め、実際に記録された安楽死・死亡の件数
どちらが正しいかではなく、何を測るために作られた数字かが違います。前者は「目標までの距離」、後者は「起きたことの記録」です。ノーキルの達成度を語るときは前者、シェルター全体の現実を語るときは後者、と使い分ける必要があります。
また、救命率は割合なので、分母(受け入れ数)が減っても上がります。受け入れを予約制にするなどの「受け入れ管理」は、過密を防ぐ現実的な手段である一方、受け入れられなかった動物がどうなったかは統計に表れません。「減った」のか「見えなくなった」のかは、数字だけでは区別できないのです。
日本との違い|何を数えるかで景色が変わる
日本では、環境省が自治体の集計を「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」として公表しています。2024年度(令和6年度)の数字は次のとおりです。
- 引取り数:3万9,409頭(犬1万7,399頭・猫2万2,010頭)
- 返還・譲渡数:3万2,506頭
- 殺処分数:6,830頭(犬1,964頭・猫4,866頭)
返還・譲渡数を引取り数で割ると、単純計算で約82.5%。偶然ですが、アメリカの全国救命率とほぼ同じ水準です(年度末時点で施設にいる動物の扱いなどが異なるため、厳密な比較ではありません)。
違いは、数字の使われ方にあります。
- 日本:殺処分数という「頭数」を減らすことが中心の指標。2019年度からは、①譲渡に適さない(重い病気・攻撃性など)、②それ以外(譲渡先の確保が難しいなど)、③引取り後の死亡、の3区分で公表
- アメリカ:救命率という「割合」を施設ごとに公開。Best Friends のダッシュボードでは、個々のシェルターの数字まで誰でも見られる
日本の3区分は、アメリカで言えば「90%の外側」にあたる部分を分けて見せる工夫です。一方、アメリカのように施設ごとの数字を横並びで公開する仕組みは、日本ではまだ一般的ではありません。自治体ごとの差を見える形にすることは、次の一歩になりえます。
「愛護」と「福祉」の考え方の違いについては「動物愛護と動物福祉の違いは?」で整理しています。
まとめ
- 「2025年までに全米ノーキル」は達成されなかった。2025年の全国救命率は82.5%、殺処分は約39万6,000頭
- それでも2016年の100万頭超からは半分以下になり、68%のシェルターがノーキル基準を満たした
- 猫は記録的に改善し、犬は2020年以降の停滞から2025年にようやく改善に転じた
- 残る課題はテキサス、カリフォルニアなど一部の州に集中している
- 数字は「目標までの距離」なのか「起きたことの記録」なのかで大きく変わる
期限つきの目標は、達成できなかったときに「失敗」と片づけられがちです。けれども、この10年で最も大きく変わったのは、全米のシェルターの数字が同じ物差しで集められ、公開されるようになったことかもしれません。見えるようになったからこそ、どこに課題が残っているかを語れるようになりました。
目標年は過ぎましたが、ノーキルの取り組みは終わっていません。アメリカのシェルター事情の全体像は「アメリカの動物保護シェルター事情」もあわせてご覧ください。
(2026年9月 執筆。数字は各団体・省庁の公表時点のものです)
参考記事
- Best Friends Animal Society「2025 National Shelter Data Report」(2026年)
- Best Friends Animal Society「No-Kill」(2016年の目標と経緯)
- Best Friends Animal Society「New Data Reveals State Rankings in Saving Dogs and Cats in Shelters」(2026年4月2日)
- Best Friends Animal Society「Nearly Half of Shelters in Texas Achieved No-Kill in 2025」(2026年4月15日)
- Shelter Animals Count「2025 Annual Data Report」(2026年2月4日)
- 環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」(令和6年度)


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