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アメリカの犬の繁殖業者は誰が監督しているのか|USDAが2026年9月に基準見直しを表明、1991年から変わらない運動・繁殖のルール

2026年9月21日、アメリカ農務省(USDA)は、犬の繁殖業者に対する監督を強める一連の取り組みを発表しました。中心にあるのは、連邦法「動物福祉法(Animal Welfare Act)」にもとづく犬の飼育基準を見直すことです。今の基準の多くは、1991年に大きく改められて以来、ほとんどそのままになっています。

アメリカは動物保護の先進国というイメージが強い国です。それでも、繁殖業者の飼育基準は日本の「数値規制」ほど具体的ではありません。運動の時間も、母犬が何回出産してよいかも、連邦のルールには数字で書かれていないのです。

この記事では、USDAの発表の中身を整理したうえで、アメリカの繁殖業者がどんな仕組みで監督されているのか、どこに穴があるのかを見ていきます。最後に、2021年に数値規制を導入した日本と比べます。

2026年9月21日、USDAは何を発表したのか

USDAのロリンズ長官は、2026年9月21日、保健福祉省(HHS)や司法省(DOJ)などと関係機関の会合を開き、犬をはじめとする伴侶動物の監督強化策を発表しました。主な内容は次のとおりです。

  • 飼育基準の改定案を2027年に出す:2026年に行った意見募集には、7,522件の意見が寄せられました。USDAは、その多くが犬の基準の強化を支持したとしています
  • 繁殖施設への通知:犬の繁殖施設に、法律が求める内容をあらためて伝える文書を2,000通以上送ります
  • 専門部署の設置:新しく「動物保護局(Animal Protection Bureau)」をつくり、無免許の業者を見つけたり、検査を改善したりします
  • 調査員の増員:USDAの監察総監室(OIG)は、闘犬などを担当する特別捜査官を今後1年で20%増やす予定です
  • 免許を返上した業者の洗い出し:過去2年間にUSDAや州の免許を返上した犬の繁殖業者を、6か月以内にすべて調べます。免許なしで法律の規制を逃れて営業していれば、処分を検討します

このうち最も大きいのは、1つ目の飼育基準の改定です。ただし、今回発表されたのは改定の方針とスケジュールです。具体的な数値や条文はまだ示されていません。

アメリカの繁殖業者を監督する仕組み|動物福祉法とUSDA

アメリカで繁殖業者を監督する連邦の法律は、1966年8月24日に成立した動物福祉法(AWA)です。対象は、犬・猫・ウサギ・ハムスターなど、研究・展示・ペットとしての販売などに使われる温血動物です。ただし、食用の家畜や、研究用に繁殖されたマウス・ラットなどは対象外です。

この法律の運用は、USDAの動植物検疫局(APHIS)が担っています。仕組みは大きく3つです。

  • 免許制:ペットショップや仲介業者に卸す繁殖業者、ネットなどで客に会わずに販売する業者は、USDAの免許が必要です
  • 立ち入り検査:USDAの検査官が施設を訪れ、基準を満たしているかを確認します。2026年には、犬の繁殖業者と仲介業者の施設を2,000回以上検査したとされています
  • 処分:違反があれば、警告、免許の停止・取り消し、司法省と組んだ差し止め請求などを行います

もう一つ大事なのは、州の法律が別にあることです。ペットショップでの犬猫販売を禁止する州や、繁殖業者に州独自の許可を求める州もあります。アメリカの規制は「連邦の最低基準」と「州ごとの上乗せ」の二重構造になっています(アメリカの州ごとの動きはアメリカの動物愛護事情で紹介しています)。

いまの基準はどこまで求めているのか

犬の飼育基準は、連邦規則集の第9編第3部(9 CFR Part 3)にまとめられています。2026年2月の官報によれば、飼育の基本部分(第3.1条〜第3.11条)は1991年2月15日の規則で大きく改められて以来、大きな改定がありません。獣医療の基準(第3.13条)だけは、2020年5月に追加されました。

たとえば運動について、いまの規則(第3.8条)が求めているのは次のようなことです。

  • 業者は運動の計画をつくり、担当獣医師の承認を得て、そのとおりに実施する
  • 生後12週を超える犬を、最低限の床面積の2倍未満のケージで1頭ずつ飼う場合は、定期的に運動の機会を与える
  • ほかの犬を見たり聞いたりできない環境で飼う場合は、毎日、人との前向きなふれあいを与える
  • ランニングマシンや水泳などの強制的な運動は、運動として認めない
  • 運動の頻度・方法・時間は、担当獣医師が決める

つまり、「1日に何時間」という数字はありません。適切かどうかの判断は、各施設の獣医師に任されています。

母犬の繁殖についても、連邦の規則には、何歳まで繁殖させてよいか、生涯に何回まで出産させてよいかの上限がありません。USDA自身も官報で、州法の中には繁殖と繁殖の間の「十分な休息」や、繁殖年齢の上限・下限、生涯の出産回数の上限を定めるものがあると認めています。連邦の基準が州に追い越されている状態です。

何を見直すのか|繁殖メスのケア、運動、社会化

USDAは2026年2月17日、官報で意見募集(RFI)を始めました。締め切りは当初3月19日でしたが、4月20日まで延長されています。

意見を求めたテーマは、大きく2つです。

1. 繁殖メスのケア

  • 繁殖メスには、繁殖しない犬とは別の獣医療やケアが必要か
  • 妊娠中・授乳中の栄養について、どんな研究があるか
  • 繁殖時の年齢は、母犬の健康にどう影響するか
  • 出産の回数と頻度は、母犬の健康にどう影響するか。犬の大きさによる違いはあるか
  • 遺伝性疾患の検査には、業者にとってどんな費用と利点があるか

2. 運動と社会化

  • 人やほかの犬との関わりについて、どんな研究があるか
  • 1頭だけで飼われる犬の健康と福祉について、どんな研究があるか
  • 年齢・犬種・健康状態に応じて、どれだけの運動が必要か
  • 繁殖施設での人との関わりが、犬の福祉にどう影響するか

官報では、パデュー大学獣医学部の研究グループによる、繁殖犬の福祉の認証プログラムにも触れています。繁殖年齢や出産回数の上限、健康要件、引退後の譲渡計画までを含む、科学にもとづく基準の例です。

今回の見直しは、「獣医師の判断に任せる」形から、科学的な根拠にもとづく具体的な基準へ進めるかどうかが焦点です。ただ、官報で示されたのは質問だけで、USDAが結論を持っているわけではありません。

2026年の取り締まりを数字で見る

USDAの発表には、2026年の取り締まりの実績も並んでいます。

  • 犬の繁殖業者・仲介業者の施設検査:2,000回以上
  • 公式の警告:15件
  • 免許の拒否・終了:8件
  • 免許の停止:6件
  • 免許の取り消し:5件(取り消された業者は、以後この法律の対象となる事業に就けません)
  • 司法省と組んだ差し止め請求:3件
  • 刑事捜査への協力:5件(うち犬に関わるもの3件)

USDAは、処分の件数が過去の年の2倍を超えたとしています。一方で、2,000回以上の検査に対して、免許の取り消しは5件です。これを「悪質な業者が少ない」と読むのか、「処分まで進むのが難しい」と読むのかは、この数字だけでは判断できません。

発表では、検査官が違反を写真で記録する運用を再開したことや、検査結果を調べられる公開検索ツールを改善したことにも触れています。違反を「見えるようにする」取り組みです。処分の件数が増えたとき、違反そのものが増えたのか、見つかるようになったのかを分けて考える必要があります。

監督の「穴」はどこにあるのか

USDAの発表や規則を読むと、連邦の監督が届きにくい部分も見えてきます。

1. 免許がいらない業者
連邦の規則では、繁殖メスが合計4頭以下で、自分の施設で生まれ育った子どもだけを売る人は、免許が不要です。また、売り手・買い手・動物がその場にそろい、買い手が動物を直接見てから買う「小売ペットショップ」も、免許の対象外です。こうした業者は、原則としてUSDAの検査を受けません。

2. 免許を返上して逃れる業者
今回USDAが「過去2年間に免許を返上した業者を全員調べる」としたのは、この穴があるからです。処分を受ける前に免許を返上し、規模を小さく見せたり、売り方を変えたりして営業を続ければ、連邦の監督から外れてしまいます。

3. 検査する人手
USDAは、獣医師を目指す学生への支援額を4万ドルから5万ドルに上げ、2026会計年度に12人の獣医師を新たに採用したとしています。人手の確保をわざわざ成果として挙げていること自体が、検査する側の人手が課題であることを示しています。

どれも、個々の業者の善意や悪意の話ではありません。免許の線引き、情報の見え方、検査する人の数といった、制度の設計の話です。

日本との違い|数字で決めた日本、獣医師に任せてきたアメリカ

日本では、2019年の動物愛護管理法の改正を受けて、2021年6月1日に犬猫の飼養管理基準を定める環境省令が施行されました。いわゆる「数値規制」です。ケージの広さや従業員1人あたりの頭数などは、経過措置を設けて段階的に適用されました。

主な項目をアメリカの連邦基準と比べると、次のようになります。

  • 運動:日本は、運動スペースを分けて飼う場合、1日3時間以上自由に運動できる状態に置くことを求めています。アメリカ連邦は、時間を定めず担当獣医師が決めます
  • ふれあい:日本は、散歩や遊びを通じた触れ合いを毎日求めています。アメリカ連邦は、ほかの犬と接触がない場合に限り、人との毎日のふれあいを求めています
  • 繁殖の上限:日本は、犬の雌の生涯出産回数を6回まで、交配時の年齢を原則6歳以下としています。アメリカ連邦には上限がありません(州法にはあります)
  • 人手:日本は、従業員1人あたり繁殖犬15頭、販売犬20頭を上限としています。アメリカ連邦には同じような上限がありません
  • ケージの広さ:日本は、体長・体高にもとづいて縦・横・高さを決めています。アメリカ連邦も床面積の最低基準を定めています

基準の書き方だけを見れば、日本のほうが具体的です。数字で決めれば、検査のときに「満たしているかどうか」を判断しやすくなります。

ただし、基準が具体的であることと、それが守られていることは別の話です。アメリカは、検査の回数や処分の件数、違反の写真記録を公表し、監督の実績を数字で示そうとしています。日本では、自治体ごとの立ち入り検査や処分の状況が、全国で比べられる形ではまだ十分に見えません。

基準の細かさでは日本が進み、監督の見える化ではアメリカが取り組みを強めている。今回の発表は、そんな違いを映しています(ヨーロッパの動きはEUの犬猫福祉規則で紹介しています)。

まとめ

アメリカの犬の繁殖業者は、1966年に成立した動物福祉法のもと、USDAの免許と立ち入り検査で監督されています。ただ、飼育の基本的な基準は1991年から大きく変わっておらず、運動の時間や出産回数の上限は、連邦のルールには数字で書かれていません。

USDAは2026年9月21日、意見募集の結果をもとに、2027年に基準の改定案を出すと発表しました。あわせて、免許を返上して規制を逃れる業者の洗い出しや、専門部署の設置、検査結果の公開にも取り組むとしています。

基準を数字で決めること。決めた基準が守られているかを、外から見えるようにすること。どちらか一方だけでは、繁殖の現場にいる犬の暮らしは変わりません。2027年の改定案にどんな数字が入るのか、そしてその運用がどこまで公開されるのかを、引き続き見ていきます。

(2026年9月 執筆。USDAの発表内容と規則の条文は、参考記事の一次情報にもとづいています。改定案の具体的な内容は、執筆時点では公表されていません)

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