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イギリスで賃貸住宅のペット飼育が「権利」に|2026年5月施行、Renters’ Rights Actで何が変わったか

イギリス(イングランド)では2026年5月1日から、民間の賃貸住宅に住む人が「ペットを飼いたい」と家主に申し出る権利が、法律で定められました。家主は、合理的な理由なく断ることができません。

「ペット可の物件が当たり前になった」と紹介されることもありますが、正確には少し違います。法律が保障したのは「申し出る権利」と「理由なく断られない権利」で、すべての物件でペットが飼えるようになったわけではありません。

この記事では、Renters’ Rights Act 2025(賃借人権利法)のペット条項を条文にそって整理し、なぜ法律が必要だったのか、効果をどう確かめるのか、日本の状況とどう違うのかを考えます。

何が変わったのか|2026年5月1日の施行

Renters’ Rights Act 2025 は、イングランドの民間賃貸住宅のルールを大きく見直す法律です。年表で整理します。

  • 2021年1月28日:政府が「モデル賃貸借契約書」を改定。ペットの同意を原則とする内容に(ただし使用は任意)
  • 2024年9月:法案が議会に提出される
  • 2025年10月27日:国王の裁可を受け、法律として成立
  • 2026年5月1日:第1段階が施行。ペットの申し出の権利もここから

同じ日には、理由を示さずに退去を求められる「セクション21」による立ち退きの廃止や、期間の定めのある契約から期限のない契約への切り替えも行われました。ペットの条項は、借り手が安心して長く住めるようにする改革の一部です。

政府の案内は、これらのルールは契約書に何を書いても変えたり外したりできないとしています。「ペット不可」と書かれた既存の契約でも、借り手は申し出ることができます。

ペット条項の中身|書面で申し出て、28日以内に回答

この法律は、1988年住宅法に第16A条・第16B条を加えました。主な中身は次のとおりです。

  • 申し出の方法:借り手は書面で、飼いたいペットの説明を添えて申し出る
  • 回答の期限:家主は28日以内に書面で同意するか断るかを伝える
  • 断る場合:同意を不合理に拒んではならない
  • 期限の延長:家主が追加の情報を求めた場合は、情報を受け取ってから7日後まで。建物全体の所有者(上位の家主)の同意が必要な場合は、その回答から7日後まで
  • 争いになったら:裁判所は家主に義務の履行を命じることができる。政府は、新設する民間賃貸オンブズマンへの申し立ても想定しています
  • 対象:民間の賃貸住宅。公営住宅などの社会住宅は対象外

法律上の「ペット」は、主に個人的な関心、伴侶、観賞のために飼われる動物と定義されています。犬や猫に限りません。

家主はどんなときに断れるのか

条文が「合理的に断れる」と明記しているのは、次の2つだけです。

  • ペットを飼うと、家主が建物全体の所有者との契約に違反してしまう場合
  • 建物全体の所有者の同意が必要で、家主が手を尽くしても同意が得られなかった場合

それ以外は、一件ずつ判断することになります。政府は「賃貸住宅は多様で、断ってよい場面をすべて法律で書き切ることはできない」と説明しています。たとえば狭い部屋での大型犬のように、物件とペットの組み合わせによっては断る理由になりえます。

つまりこの法律は、「ペット不可」を一律に禁じたのではなく、断るなら理由を示すことを家主に求めたものです。一律の禁止から個別の判断へ。変わったのは、判断の仕組みです。

ペット保険と敷金はどうなったか

法案の段階では、家主が同意の条件として、借り手にペットによる損害を補償する保険への加入や、その費用の負担を求められる規定がありました。この規定は審議の過程で削除され、成立した条文には含まれていません。

では、ペットが部屋を傷つけたらどうなるのか。政府の説明では、損害には通常の敷金が充てられ、敷金で足りない場合は、家主が裁判所を通じて請求できます。敷金の額には、2019年の法律(Tenant Fees Act)による上限がもともとあります。

家主の不安への備えを保険という新しい仕組みに頼らず、既存の敷金と司法の手続きで受け止める形になりました。

なぜ法律が必要だったのか|「推奨」では変わらなかった

イギリス政府は2021年1月、モデル契約書を改定し、ペットの同意を原則としました。発表の時点で、ペット可として広告していた民間の家主はわずか7%でした。

ただし、モデル契約書は使うかどうかが任意です。その後も状況は大きく変わりませんでした。イングランド住宅調査(2024〜2025年度)では、民間賃貸に住む人の8%(約36万3,000世帯)が、直近12か月の間に「ペットがいることを理由に物件を借りられないと言われた」と答えています。

善意や推奨だけでは、市場の慣行は動きにくい。だから法律で「断るなら理由を」と定めた、という流れです。

効果は数字で確かめられるのか

この法律の特徴は、効果を測る準備が先にされていることです。

住宅・コミュニティ・地方自治省は2026年5月14日、施行前の民間賃貸の状況をまとめた報告書を公表しました。そこでは、先ほどの「ペットを理由に借りられないと言われた」8%という数字が、今後の変化を比べるための基準値として位置づけられています。

気をつけたいのは、権利ができても、それがすぐに「借りやすくなった」とは限らないことです。

  • 申し出の権利は、入居中の借り手のものです。物件を探す段階で「ペット不可」として募集されることまでは、この条文だけでは防げません
  • 家主が不合理に断っても、借り手が争うには時間と手間がかかります
  • ペットを理由にした飼育放棄や、住まいを失う人が減ったかどうかは、別のデータで確かめる必要があります

「法律ができた」と「現場で機能している」は別の話です。次の住宅調査で数字がどう動くかが、本当の評価になります。

イギリスの動物福祉の法律の歩みは「「ペット先進国」イギリスの動物福祉」、ペットショップでの販売規制は「イギリスのペットショップは子犬・子猫の販売禁止!」で紹介しています。

日本との違い|「住まい」が飼育の最大の壁

日本には、賃貸住宅で借り手がペットの飼育を申し出る権利を定めた法律はありません。飼えるかどうかは、賃貸借契約や、マンションの管理規約で決まります。

環境省は2010年に「住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン」をまとめていますが、これは飼い主に向けた飼い方の指針です。借り手と家主のあいだで、どう判断するかの手順を定めたものではありません。

その影響は、数字にはっきり表れています。ペットフード協会の「2025年 全国犬猫飼育実態調査」で、犬や猫を飼っていないものの今後飼いたい人に、飼っていない理由を聞いた結果です。

  • 犬:「集合住宅に住んでいて禁止されている」が26.0%。いちばん大きな理由として選んだ人は22.4%で、全項目の中で最多
  • 犬・20代:同じ理由を挙げた人は47.9%
  • 猫:「集合住宅に住んでいて禁止されている」が31.3%で最多。いちばん大きな理由としても26.9%で最多

飼いたい気持ちがあっても、住まいのルールで最初から選択肢に入らない人が、一定の割合でいるということです。

もちろん、日本とイギリスでは住宅事情も、集合住宅の比率も異なります。イギリスの仕組みをそのまま持ち込めばよいわけではありません。ただ、「一律に禁止する」か「理由があれば断れる」かという線の引き方は、日本でも考える価値があるはずです。

まとめ

  • イングランドでは2026年5月1日から、民間賃貸の借り手がペットを飼いたいと申し出る権利が法律で定められた
  • 申し出は書面で行い、家主は28日以内に書面で回答する。不合理に断ることはできない
  • 断れる理由として条文に書かれているのは上位の家主との関係だけで、それ以外は個別に判断する
  • ペット保険を条件にする規定は削除され、損害は敷金と裁判で対応する
  • 施行前の基準値(8%の借り手がペットを理由に断られた)が公表されており、効果は今後の調査で確かめられる
  • 日本では、集合住宅での禁止が、犬・猫を飼いたい人にとって最大の壁になっている

この法律は、家主に「ペットを受け入れなさい」と命じたものではありません。「断るなら理由を示しなさい」と求めたものです。善意に頼らず、判断の手順を仕組みとして決める。そして、その効果を数字で確かめる。動物と暮らす人の住まいを守る方法として、参考になる考え方です。

(2026年9月 執筆。内容はイングランドの制度で、ウェールズ・スコットランド・北アイルランドは別の制度です)

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