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フランスのペットショップはなぜ犬猫を売らないのか|2024年販売禁止、7日間の待機期間、12月のイルカショー禁止まで

フランスでは2024年1月1日から、ペットショップで犬と猫を販売することが法律で禁じられています。根拠は、2021年11月30日に公布された「動物虐待と闘い、動物と人の絆を強める法律」(2021年法律第1539号)です。

この法律は、ペットショップの販売禁止だけを定めたものではありません。犬猫を迎える前の「知識と誓約の証明書」と7日間の待機期間、ネット販売の制限、虐待・遺棄の厳罰化、そして2026年12月1日から始まるイルカ・シャチのショー禁止まで、飼育の入り口から野生動物の展示までをまとめて見直しました。

結論を先に言うと、法律は「売り方」を大きく変えましたが、すべてが予定どおり動いているわけではありません。フランス上院の2026年6月の報告では、この法律の実施に必要な規則のうち、整っているのは約7割にとどまります。この記事では、フランス政府と議会の公表資料をもとに、制度の中身と、施行後に見えてきた課題を整理します。

2021年の「動物虐待対策法」とは

正式名は「動物虐待と闘い、動物と人の絆を強めることを目的とする2021年11月30日の法律第2021-1539号」です。議員提出の法案として国会で審議され、成立しました。

フランス農業・食料主権省の説明によると、法律の柱は大きく3つです。

  • 犬猫などの遺棄を減らす:証明書と待機期間、ペットショップとネット販売の規制、個体識別の徹底
  • 虐待への罰則を強める:刑罰の引き上げ、加重事由の追加、裁判所による「啓発研修」の導入
  • 飼育下の野生動物の扱いを変える:サーカスの野生動物、イルカ・シャチのショー、毛皮用ミンクの飼育の禁止

背景にあるのは、遺棄の多さです。同省は、犬猫の保護施設や動物保護団体が引き受ける動物は年間約20万頭にのぼるとしています。一方で、フランスで飼われている猫は約1,660万頭、犬は約990万頭(いずれも2024年)です。

年表で見る、施行のスケジュール

この法律の特徴は、禁止を一度に始めず、準備期間を置いて段階的に施行している点です。

  • 2021年11月30日:法律の公布。虐待の罰則強化、毛皮用ミンク飼育の禁止などはこの時点から
  • 2023年12月1日:巡回サーカスでの野生動物の新たな取得・繁殖の禁止。テレビ番組やナイトクラブでの野生動物の展示、クマ・オオカミの巡回ショーの禁止
  • 2024年1月1日:ペットショップでの犬猫販売の禁止
  • 2026年12月1日:イルカ・シャチのショーと、観客との直接の接触の禁止。研究や保護施設(サンクチュアリ)以外での飼育・繁殖の禁止
  • 2028年12月1日:巡回サーカスでの野生動物の飼育とショーの全面禁止

あと2カ月で、イルカとシャチの段階がやってきます。

ペットショップでの犬猫販売禁止|代わりに「保護動物の紹介」

法律の第15条により、2024年1月1日からペットショップは犬と猫を販売できなくなりました。

ただし、ペットショップから犬猫が完全に消えたわけではありません。店は、保護施設や動物保護団体が保護している犬猫を、団体の担当者の立ち会いのもとで紹介することができます。売るのではなく、譲渡の窓口の役割を担う形です。

この考え方は、店頭での「衝動買い」を減らすことにあります。見て、かわいいと思い、その日に連れて帰る。その流れを断つことで、飼い始めてから手放すケースを減らそうとしています。

なお、犬猫以外の小動物(ウサギ、ハムスター、鳥など)は、禁止の対象ではありません。また、ブリーダーから直接迎えることは引き続き認められています。イギリスの第三者販売禁止(通称ルーシー法)と同じく、「どこから迎えるか」を業者の直売か保護動物に寄せる仕組みです(イギリスの制度はイギリスのペットショップは子犬・子猫の販売禁止!で解説しています)。

迎える前の「証明書」と7日間の待機期間

法律の第1条は、犬・猫・ウサギ・フェレット(のちに馬などにも拡大)を迎える人に、「知識と誓約の証明書(certificat d’engagement et de connaissance)」への署名を求めています。

証明書には、その動物に必要な世話、費用、寿命、しつけなどが書かれています。迎える人はそれを読み、責任を理解したと署名します。

重要なのは、証明書を受け取ってから7日以上たたないと、動物を引き渡してはならないという点です。購入でも無償の譲渡でも同じです。1週間の「考える時間」を制度として挟むことで、勢いで迎えることを防ごうとしています。

あわせて、未成年に動物を譲る場合は、親などの同意が必要になりました。

ネット販売の制限と、虐待・遺棄の厳罰化

第18条は、インターネット上での動物の売買・譲渡の告知を原則として禁じました。例外として、動物専用の欄を設け、飼育の責任についての啓発メッセージを表示するサイトに限り、ブリーダーや登録された事業者などが掲載できます。生きた脊椎動物を郵便で送ることも禁止されました。

罰則も引き上げられました。

  • 重大な虐待・残虐行為:拘禁2年・罰金3万ユーロ → 拘禁3年・罰金4万5,000ユーロ
  • 動物が死亡した場合:拘禁5年・罰金7万5,000ユーロ
  • 未成年の目の前での虐待や、飼い主による虐待などの加重事由:拘禁4年・罰金6万ユーロ

遺棄は、重大な虐待と同じ刑罰(拘禁3年・罰金4万5,000ユーロ)の対象です。さらにこの法律で、動物を死の危険が差し迫った状況に置き去りにすることが、加重事由として加えられました。

2026年12月から、イルカとシャチのショーが禁止に

第46条は、公布から5年後、つまり2026年12月1日から、イルカやシャチなど鯨類が出演するショーと、観客が鯨類に直接触れる体験を禁じています。同じ日から、鯨類の飼育と繁殖も、認められた研究計画や保護施設の場合を除いて禁止されます。

この規定の影響を最も受けたのが、南仏アンティーブの水族館「マリンランド」です。フランス国民議会の質問への政府答弁によると、同施設は2025年1月5日に営業を終了しました。残されたのは、イルカ12頭とシャチ2頭(ウィキーとケイジョ)です。

政府は2024年11月、シャチを日本の施設へ移す案に対し、移動が長すぎて健康状態に合わないとして反対しました。一方で、ヨーロッパには現時点でシャチを受け入れられる保護施設がないことも認めています。上院の2026年6月の報告は、2026年5月15日に施設側がスペインへの移送の可能性を発表したことに触れ、行き先の問題を懸念事項として挙げています。

「ショーをやめる」ことは法律で決められても、「すでにいる動物をどこで生涯を終えさせるか」は、法律だけでは決まりません。禁止の日付が先に決まり、受け皿が後から追いかけている状態です。

施行後に見えてきた課題|「奥の部屋」と未整備の規則

フランス上院は毎年、法律がどこまで実施されているかを点検しています。2026年6月26日付の報告(2026年3月31日時点の集計)では、この法律について次のように指摘しています。

  • 実施に必要な規則22件のうち、整ったのは15件(適用率68%)。前年から進んでいない
  • 2025年3月、動物保護団体の調査で、一部のペットショップが店の奥で犬猫を売り続けていたことが明らかになった
  • その後、ペットの販売業に衛生・福祉のルール(犬1頭あたり5㎡、猫1頭あたり2㎡などの面積基準や、事業者の登録)を定める省令が出された
  • 一方、違法な販売を続ける店への制裁を定める政令は、2026年5月時点でまだ「作成中」だった
  • 鯨類については、必要な3つの省令のうち、出ているのは2024年6月28日付の1つだけ

また、遺棄の実態を数字で追うこと自体も簡単ではありません。農業・食料主権省は、毎年の遺棄の数を正確に数えるのは難しいと認め、2021年に「家庭動物の保護に関する観測所」を設けて、データの集約を進めています。

「禁止した」ことと「守られている」ことの間には、確認と制裁の仕組みが要ります。フランスの5年間は、その部分が一番遅れやすいことを示しています。

日本との違い

日本の動物愛護管理法も、2019年の改正で大きく変わりました。環境省の資料をもとに比べると、次のようになります。

  • ペットショップでの販売:フランスは犬猫の販売を禁止。日本は販売を認めたうえで、生後56日(8週)以下の犬猫の販売を禁じる「8週齢規制」を2021年6月から完全実施
  • 迎える前の手続き:フランスは証明書への署名と7日間の待機を義務化。日本は販売時の対面説明と現物確認を業者に義務づけているが、待機期間の定めはない
  • 個体識別:日本は2022年6月から、販売される犬猫へのマイクロチップ装着を業者に義務化。一般の飼い主は努力義務
  • 罰則:日本は2019年改正で、殺傷罪を5年以下の拘禁刑(改正当時は懲役)・500万円以下の罰金に、虐待・遺棄に1年以下の拘禁刑を追加
  • 数字の公表:日本は全国の犬猫の引取り数を毎年公表している。2024年度は引取り3万9,409頭、殺処分6,830頭

日本は、行政の引取り・殺処分の数字を国が毎年まとめて公表している点では、フランスより「見える」部分があります。一方で、フランスは販売の入り口そのものを変えることを選びました。どちらが正しいかではなく、何を数え、どこで止めるかの設計が違うと見るのが現実的です。

EU全体でも、犬猫の繁殖・販売のルールをそろえる新しい規則が決まりつつあります(EUが初めて犬猫の福祉ルールを統一)。フランスの国内法は、その先行例のひとつです。

まとめ

  • フランスは2021年の法律で、2024年1月からペットショップでの犬猫販売を禁止した。店は保護動物の紹介の場として使える
  • 犬猫などを迎える人には、証明書への署名と7日間の待機期間が義務づけられた
  • ネット販売の制限、虐待・遺棄の厳罰化(最大で拘禁5年・罰金7万5,000ユーロ)も同じ法律で行われた
  • 2026年12月1日からはイルカ・シャチのショーが禁止。閉園したマリンランドのシャチ2頭の行き先はまだ課題として残る
  • 上院の点検では、必要な規則の適用率は68%。違法販売への制裁の政令などが未整備

フランスの法律は、「動物を大切に」という気持ちを、証明書、待機期間、販売ルートの制限という手続きに置き換えました。善意に頼らず、仕組みで衝動的な飼育を減らそうとする設計です。ただ、仕組みは作った瞬間に完成するものではありません。守られているかを確かめ、守られていないときに止める手段まで整って、はじめて機能します。

イギリスがどのように法律を積み重ねてきたかは、「ペット先進国」イギリスの動物福祉もあわせてご覧ください。

(2026年9月 執筆。条文の内容は2021年法律第1539号の公布時の条文、実施状況はフランス上院の2026年6月の報告にもとづきます。ユーロ建ての金額は条文上の上限です)

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