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短頭種の繁殖は海外で禁止されているのか|オランダの6基準とノルウェー最高裁判決、2026年に始まった折れ耳猫の飼育禁止

パグやフレンチ・ブルドッグのような鼻の短い犬は、日本でも街でよく見かける人気の犬種です。一方でヨーロッパの一部の国では、こうした犬の繁殖に法律で条件を付ける動きが進んでいます。

ただし「短頭種の繁殖は禁止された」と一言でまとめると、実態とずれます。オランダは犬種を禁止したのではなく「呼吸の状態」などの基準を満たさない個体の繁殖を止めました。ノルウェーでは最高裁が、犬種まるごとの繁殖を違法と判断しましたが、それは短頭種ではなくキャバリアでした。

この記事では、オランダ・ノルウェー・イギリス・ドイツの仕組みを一次情報で整理し、日本のルールとの違いを見ていきます。短頭種そのものの特徴や犬種の一覧は、短頭種とは?鼻が短い犬種の一覧と健康リスクで解説しています。

なぜ「見た目のための繁殖」が問題になるのか

短頭種は、頭の骨が前後に短くなるように選んで繁殖されてきた犬種です。鼻の穴が狭い、のどの奥の組織が余るといった構造から、呼吸がしにくくなる「短頭種気道症候群(BOAS)」が起こりやすいことが知られています。

数字で見ると、イギリスの動物病院の診療記録(VetCompass)を使った2022年の研究では、2016年1月〜2020年7月に死亡した犬30,563頭の0歳時点の平均余命が11.23年だったのに対し、フレンチ・ブルドッグは4.53年で、調べた18犬種の中で最も短い結果でした。イングリッシュ・ブルドッグは7.39年、パグは7.65年です。

ただし、著者ら自身がこの数字には注意を付けています。

  • フレンチ・ブルドッグは英国ケネルクラブの登録数が2011年の2,771頭から2020年の39,266頭へ急増しており、データが若い犬に偏っている可能性がある
  • サンプル数が232頭と少ない
  • 日本の推計(10.2年)とは大きく異なる

「短命だ」と断定するより、「若いうちに亡くなる割合が高い傾向が、記録から見えてきた」と受け止めるのが正確です。そして各国の規制は、この「見えてきたリスク」をどう線引きするかという問題に取り組んでいます。

オランダ|犬種ではなく「個体の状態」で線を引く

オランダでは、2014年に施行された動物飼育者令(Besluit houders van dieren)の第3.4条が、ペットの繁殖について、親や子の健康・福祉を損なう繁殖をしてはならないと定めています。ただ、条文が抽象的で、どの犬が該当するのかを判断しにくいという問題がありました。

そこで政府の依頼を受けたユトレヒト大学の専門家が、短頭の犬を繁殖に使ってよいかを判断する基準をつくり、2019年から運用されています。基準は6つあり、たとえば次のような点を見ます。

  • 安静時に、いびきのような呼吸音がないか
  • 頭の長さに対する鼻の長さの比率(CFR)
  • まぶたを閉じられるか

特徴は、犬種ではなく1頭ずつの体の状態で判断することです。パグでもフレンチ・ブルドッグでも、基準を満たす個体なら繁殖できます。

当初は、鼻が極端に短い犬(CFR 0.3未満)でも、鼻の長い犬と交配するなら認める一時的な例外がありました。政府は2023年8月24日、ブリーダーには4年半の準備期間があったとして、この例外を即日廃止しました。同時に、呼吸を楽にするための手術(鼻の穴を広げる、軟口蓋を短くするなど)を受けた成犬も繁殖に使えないことにしています。外科的に症状を和らげた犬から、その体の特徴が子に受け継がれるのを防ぐためです。

取り締まりは食品・消費者製品安全庁(NVWA)が行い、違反には1件1,500ユーロの行政罰金が科されます(2023年8月の政府発表時点)。

オランダの犬の制度全体については、「オランダには野良犬がいない」は本当かでも扱っています。

オランダ|2026年、折れ耳猫と無毛猫は「飼うこと」も禁止に

オランダはさらに一歩進み、2026年1月1日から、耳が折れた猫(スコティッシュ・フォールドなど)と毛のない猫を新たに飼うことを禁止しました。繁殖はすでに禁止されていましたが、国外から迎えることも含めて止めるための「飼育禁止」です。

  • 2026年1月1日以降に生まれた猫と、マイクロチップのない猫が対象
  • それより前に生まれ、期日までにチップを入れていた猫は、亡くなるまで飼い続けられる
  • 経過措置の対象の猫も、品評会やショーには出せない
  • 違反には1,500ユーロの罰金

なぜ犬より先に猫だったのか。政府は2024年10月の議会への書簡で、飼育禁止を広げる条件として「その特徴が1頭1頭に深刻な苦しみを生むこと」と「どの年齢でも客観的に確認できること」を挙げていました。折れ耳は特定の遺伝子(TRPV4)の変異と結びついており、条件を満たしやすい。一方、短頭の犬は苦しみの程度が個体によって違うため、同じ線を引きにくいのです。

規制の進み方は、「かわいそうかどうか」ではなく、「測れるかどうか」で決まっている面があります。

ノルウェー|最高裁がキャバリアの繁殖を違法と判断

ノルウェーでは、動物保護団体(Dyrebeskyttelsen Norge)がノルウェー・ケネルクラブなどを相手に起こした裁判で、最高裁が2023年10月10日に判決を出しました(HR-2023-1901-A)。

  • キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル:繁殖を続けることは動物福祉法第25条(繁殖は、丈夫で機能と健康に優れた動物を生む特性を促すものでなければならない)に違反する。判断は3対2
  • イングリッシュ・ブルドッグ:犬種クラブの繁殖プログラムに従うなら違反ではない

キャバリアが問題にされたのは、頭の骨が脳に対して小さいことによる神経の病気(キアリ様奇形・脊髄空洞症)など、遺伝性の病気を持つ割合が高く、短期間で大きく改善する見込みがないと判断されたためです。

食品安全庁(Mattilsynet)は2023年11月、判決を受けて運用を示しました。

  • 禁止されるのは純血のキャバリア同士の繁殖(交配・人工授精・妊娠・出産)。別の犬種名で呼んでも免れない
  • キャバリアを飼うこと、輸入すること、売ることは引き続き合法
  • 他の犬種との交雑は禁止の対象外。ただし第25条に照らして判断される
  • ブルドッグは、呼吸機能の評価(BOAS)がグレード0か1の犬だけを、犬種クラブのプログラムに沿って繁殖に使える

裁判所は、犬種団体の繁殖プログラムが実際に健康状態を改善しているかどうかが、繁殖を続けられるかを左右すると示しました。犬種の存続が、ブリーダー団体自身の成果で問われる形になっています。

イギリス|禁止ではなく、免許の条件と呼吸機能の評価

イギリス(イングランド)は、特定の犬種の繁殖を禁止していません。代わりに、犬の繁殖業に必要な免許の条件として、2018年の動物関連事業の免許規則(The Animal Welfare (Licensing of Activities Involving Animals) (England) Regulations 2018)付表6に次の趣旨の規定を置いています。

遺伝子型・表現型・健康状態から、繁殖が親や子の健康・福祉に悪影響を及ぼすと合理的に予想される犬は、繁殖のために飼ってはならない

これを現場で判断するための道具が、ケネルクラブとケンブリッジ大学が2019年に始めた「呼吸機能グレーディング制度(RFGS)」です。パグ、フレンチ・ブルドッグ、ブルドッグを対象に、運動の前後で呼吸音を聴いて0〜3の4段階で評価し、グレード3の犬は繁殖に使わないよう勧めています。ケネルクラブの2024年5月の発表では、イギリスで3,500頭超が評価を受けています。

ただし、免許が必要なのは一定規模以上の繁殖業者で、この評価も任意です。イギリスの動物福祉の制度全体は「ペット先進国」イギリスの動物福祉で紹介しています。

ドイツとEU|「苦痛を生む繁殖」の禁止条文

ドイツの動物保護法第11b条は、繁殖の結果として、子に遺伝的な原因で体の部位や器官が欠けたり、使えなくなったりして、痛み・苦しみ・害が生じると予想される場合、脊椎動物の繁殖を禁じています。いわゆる「Qualzucht(苦痛繁殖)」の禁止です。条文は犬種名を挙げておらず、当局が不妊手術を命じられる規定もあります。

EUでも、加盟国共通の犬猫福祉規則に、過度な体型的特徴を持つ犬猫の繁殖を禁じる規定が盛り込まれました。どの特徴が該当するかは、欧州委員会が今後定めることになっています(詳しくはEUが初めて犬猫の福祉ルールを統一)。

日本との違い

日本にも関連する規定はあります。動物取扱業者が守る基準を定めた環境省令(令和3年環境省令第7号)の第2条第6号イは、販売などのために繁殖させる業者に対し、次のことを求めています(2021年6月1日施行)。

遺伝性疾患等の問題を生じさせるおそれのある動物、幼齢の動物、高齢の動物等を繁殖の用に供し、又は遺伝性疾患等の問題を生じさせるおそれのある組合せによって繁殖をさせないこと

方向性は各国と同じです。違いは、どの犬のどんな状態が「おそれのある動物」にあたるかを判断する具体的な基準が、条文には書かれていないことです。

海外の例を並べると、規制の中身は次のように分かれます。

  • オランダ:呼吸音や鼻の長さなど、1頭ずつ測れる基準を国が定め、罰金で執行する
  • ノルウェー:裁判所が法律の一般条項を犬種単位で当てはめた
  • イギリス:免許の条件に組み込み、評価の道具は民間(ケネルクラブと大学)がつくった
  • 日本:業者の遵守基準に原則を置いたが、判断の物差しはまだ共有されていない

どの国も、最初は「健康を損なう繁殖をしてはならない」という抽象的なルールから出発しています。オランダでは2014年の条文だけでは動かず、2019年に測る基準をつくってはじめて取り締まりが始まりました。日本の省令が実際に機能するかどうかも、同じく「測る物差し」を持てるかにかかっています。

まとめ

  • 短頭種の繁殖を「犬種ごと」禁止した国は、今回調べた範囲ではない。オランダは個体の状態で、イギリスは免許の条件で線を引いている
  • 犬種単位の繁殖禁止はノルウェーのキャバリア(2023年最高裁判決)。ブルドッグは条件付きで継続
  • オランダは2026年1月から、折れ耳猫と無毛猫の新たな飼育を禁止。客観的に確認できる特徴から規制が進んでいる
  • 日本にも遺伝性疾患のおそれがある繁殖を禁じる省令はあるが、判断の基準が具体的でない

見た目の好みは、買う人一人ひとりの選択の積み重ねです。ただ、その結果として生まれる犬の苦しみを個人の善意だけで減らすのは難しい。各国の制度は、それを「測れる基準」と「誰が確かめるか」の仕組みに置き換えようとしています。

迎える側にできることもあります。短頭種を迎えるなら、親犬の呼吸の状態や評価の結果をブリーダーに尋ねてみる。その問いが増えること自体が、繁殖の現場を変える力になります。

(2026年10月 執筆。各国の制度は、参考記事の政府・裁判所・法令の一次情報にもとづいています。オランダの犬の飼育禁止の検討状況は、2024年10月の政府書簡の時点のものです)

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