スウェーデンの犬の飼育ルール|「6時間ルール」は義務ではない?ケージ・散歩・登録と2025年の査察

「スウェーデンでは、犬を6時間以上ひとりにしてはいけない」。動物福祉の先進国を紹介する記事で、よく見かける説明です。ケージで飼うことも禁止されている、とも言われます。

調べてみると、この話は半分正しく、半分は不正確でした。「6時間」は法的な義務ではなく、当局が示す「目安」です。一方で、ケージで飼うことの制限や、散歩・世話の回数は、すべての飼い主に向けた規則として細かく決められています。

この記事では、スウェーデンの犬のルールを、規則の条文と2025年の査察報告から整理します。ルールがあることと、守られているかを確かめることは、別の問題だからです。

「6時間ルール」の正体|義務ではなく「目安」

根拠になっているのは、スウェーデン農業庁(Jordbruksverket)の規則「犬と猫の飼育に関する規則および一般的助言」(SJVFS 2020:8)です。2020年6月15日に施行されました。

この規則の第4章第7条は、次のように定めています。

屋外に自由に出られない状態で室内で飼われている犬は、運動の必要、年齢、健康状態に応じて、定期的に散歩させなければならない。

これは守らなければならない「規則」です。そのすぐ後に、「一般的助言」として次の一文が続きます。

犬は、日中、少なくとも6時間ごとに定期的に散歩させるべきである。子犬と老犬は、より頻繁に散歩させるべきである。

スウェーデンの規則は、「〜しなければならない(ska)」と書かれた義務の部分と、「〜すべきである(bör)」と書かれた一般的助言の部分に分かれています。一般的助言は、義務をどう満たせばよいかの目安で、それ自体に違反したから罰せられるものではありません。

つまり、「6時間」は日中の散歩の間隔の目安です。「留守番は6時間まで」という法律があるわけではありません。ただし、目安から大きく外れた飼い方は、「定期的に散歩させる」という義務を果たしていないと判断される材料になります。

留守番そのものについては、第4章第9条に別の義務があります。「犬をひとりにする場合は、少しずつ慣らさなければならない」。特に子犬や、ひとりにされると不安を示す犬には配慮が必要とされ、鳴き続ける、食べない、物を壊すといったサインが例として挙げられています。

ルールは3段構え|法律・政令・農業庁の規則

スウェーデンの犬のルールは、3つの段階で決められています。

  • 動物福祉法(2018:1192):国会が定める法律。動物を良い環境で飼い、自然な行動をとれるようにすることなど、基本の原則を定める
  • 動物福祉令(2019:66):政府の政令。攻撃性がきわめて強い犬の飼育と繁殖を、犬種ではなく行動の特徴で禁じている(第2章第20条)
  • 農業庁の規則(SJVFS 2020:8):散歩、広さ、繁殖、販売など、具体的な数字を決める

大事なのは、この規則が、ブリーダーやペットショップだけでなく、家庭で犬を飼うすべての人に適用されることです。規則は「保管場所」の例に、住居や住居の一部、ボート、キャンピングカーまで挙げています。

毎日・1日2回・6時間ごと|世話と散歩のルール

SJVFS 2020:8が飼い主に求めることを、主なものに絞ると次のとおりです。

  • 見回り:犬と猫の様子は、通常、1日に少なくとも2回確認する(第4章第2条)。子犬や病気の犬はもっと頻繁に
  • 散歩:犬は毎日、屋外で散歩させる(第4章第6条)。ずっと屋外の囲い(ラストゴード)で飼っている犬も、毎日別の場所で散歩させる
  • 人との触れ合い:毎日、人との身体的な触れ合いを与える。条件が合えばほかの犬とも(第2章第5条)
  • 頭を使う機会:においをかぐ、遊ぶ、周りを見張るといった、精神的な刺激を与える
  • つなぎ飼い:短時間の散歩、競技や狩猟、旅行中の休憩など、決められた場面で一時的にだけ認められる(第2章第2条)

ケージで「飼う」ことはできない|最低面積と例外

「ケージ飼育の禁止」は、正確には次のような仕組みです。

規則の第2章第1条は、犬と猫をつないだり、動ける範囲を制限したりしてはならないと定めています。そのうえで、第10章で犬の居場所の最低面積を決めています。

  • 室内の部屋・ボックス(1頭):体高25cm未満で2平方メートル、65cmを超えると5.5平方メートル
  • 屋外の囲い(1頭):体高25cm未満で7平方メートル、65cmを超えると20平方メートル
  • 犬小屋の寝床:長さは鼻先から尾の付け根までの1.1倍、幅は体高の1.1倍、高さは体高の1.2倍

一般的なクレートやケージは、この面積を下回ります。こうした狭い場所に犬を入れておけるのは、移動や旅行中の宿泊、ペットが入れない場所にいるとき、展示会や競技、訓練、子犬のトイレのしつけなど、一時的な場面だけです。移動中でも、止まった車の中に置いておけるのは3時間までと決められています。

つまり、クレートを使うこと自体は禁止されていません。禁止されているのは、狭い場所を「暮らしの場所」にすることです。

ペットショップで犬猫は売れない|繁殖のルール

規則の第7章第1条は、ペットショップや市場などで犬と猫を販売することを禁じています。犬と猫を、くじや競技の景品にすることも禁止です。

繁殖のルールも具体的です。

  • 雌犬の交配は生後18か月から
  • 12か月以内に2回出産した雌犬は、次の出産まで少なくとも12か月休ませる(獣医師が認めれば短縮可)
  • 帝王切開で2回出産した雌犬・雌猫は、以後繁殖に使えない
  • 病気や障害が遺伝するおそれのある犬猫、強い恐怖反応や攻撃性を示す犬猫は繁殖に使えない
  • 子犬は生後8週まで、子猫は生後12週まで母親から離さない(獣医師の確認による例外あり)

出産の「回数の上限」ではなく、母体の状態と遺伝のリスクで線を引いているのが特徴です。

犬も猫も、生後4か月までに登録

スウェーデンでは、すべての犬にマイクロチップか入れ墨で個体識別の印をつけ、農業庁の犬の登録簿に登録することが義務です。期限は生後4か月まで。生後3か月を過ぎた犬を迎えた場合は4週間以内です。オンラインでの登録料は40クローナです。

猫も2023年1月から、同じく生後4か月までの識別と登録が義務になりました(2008年1月1日より前に生まれた猫は対象外)。室内飼いの猫も含みます。

誰が確かめるのか|2025年の査察1,889件、87%は通報から

ルールが細かくても、それを確かめる仕組みがなければ、紙の上のものになります。スウェーデンで動物福祉の査察を行うのは、21の県の行政機関(länsstyrelse)です。農業庁は2026年5月、2025年の査察をまとめた「全国動物福祉報告書2025」を公表しました。

全体の数字は次のとおりです(すべて2025年)。

  • 現地での査察:8,713件(2024年は7,840件)
  • 寄せられた通報:16,032件(記録上で最多)
  • 動物の飼育禁止の決定:351件
  • 動物の保護(取り上げ)の決定:1,158件。このうち82%が犬か猫

犬に絞ると、現地査察は1,889件でした。2013年の約3,500件から減り、2016年以降はおよそ2,000件で推移しています。そして87%が、通報を受けての査察か、以前の指摘の再確認です。

報告書は、ペットについては許可が必要な事業者を除いて定期的な査察をしておらず、通報が主な入り口だと明記しています。人手の範囲で、動物が苦しんでいる可能性が高い通報を優先しているため、査察の結果は「国全体の犬の飼い方を代表するものではない」とも書いています。

そのうえで、2025年に多かった指摘は次のとおりでした。

  • 十分な世話・見回りがされていない:36%(2013年は8%)
  • 病気やけがの犬に必要な治療を受けさせていない:約40%(2013年は20%)
  • 爪が適切に切られていない:31%
  • 屋外飼育の囲いや雨風よけの不備:2013〜2025年を通じて40〜50%

治療の不足の背景として、県は獣医療費の高さ、飼い主の家計の悪化、無保険の犬の多さを挙げています。

ルールを細かく書くことと、家庭の中を確かめることの間には距離があります。スウェーデンでも、家庭の犬の様子が行政に見えるのは、ほぼ通報があったときです。

日本との違い

日本にも、犬の飼い方の数値基準はあります。2021年に定められた環境省の省令(令和3年環境省令第7号)です。ただし、適用される相手が違います。

  • 対象:日本の数値基準はブリーダーやペットショップなどの動物取扱業者向け。スウェーデンの規則は家庭の飼い主を含むすべての人が対象
  • ケージの広さ:日本は業者に、縦が体長の2倍以上、横が1.5倍以上、高さが体高の2倍以上を求める。スウェーデンは、狭い場所での飼育そのものを一時的な場面に限っている
  • 繁殖:日本は業者の雌犬について、交配は原則6歳以下、出産は生涯6回まで。スウェーデンは生後18か月からで、帝王切開2回で終了
  • 販売:日本は生後56日(8週)を過ぎた犬猫ならペットショップで販売できる(動物愛護管理法第22条の5)。スウェーデンはペットショップでの犬猫の販売自体を禁止

家庭の飼い主に向けては、日本にも「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」(平成14年環境省告示第37号)があります。犬の項目は、放し飼いをしない、つなぐときは道路に接しないようにする、散歩は引き綱で行うなど、主に人への危害や迷惑を防ぐ内容です。散歩の頻度や居場所の広さの数字はありません。

スウェーデンでも家庭を確かめる入り口は通報です。家庭の飼い主に数字を示す意味は、罰することよりも、「どこからが不十分か」を飼い主、近所の人、行政が同じ物差しで判断できるようにすることにありそうです。

まとめ

  • 「6時間」は、日中の散歩の間隔の目安(一般的助言)。義務は「定期的に散歩させる」こと
  • 見回りは1日2回、散歩は毎日、人との触れ合いも毎日。家庭の飼い主にも適用される
  • 最低面積(室内2〜5.5平方メートル)を下回るクレートやケージは、移動や訓練などの一時的な場面だけ
  • ペットショップでの犬猫販売は禁止。帝王切開2回で繁殖は終わり
  • 2025年の犬の査察1,889件のうち87%は通報などから。世話や治療の不足の指摘は2013年から増えている

スウェーデンの例が示しているのは、「先進国にはこんな厳しいルールがある」という話だけではありません。細かいルールがあっても、家庭の中は通報がなければ見えない。その前提で、何を物差しとして社会で共有しておくか、という設計の問題です。

あわせて読みたい:

(2026年10月 執筆。規則の内容はスウェーデン農業庁の SJVFS 2020:8 と公式ページ、査察の数字は同庁「全国動物福祉報告書2025」(2026年5月7日承認)にもとづく。条文の訳は筆者による)

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