2026年9月の世界の動物福祉ニュースまとめ|「誰が確かめるのか」が問われた1か月
動物福祉の制度は、つくって終わりではありません。決めたことが本当に守られているのか、誰が、どんな方法で確かめるのか。そこが弱いと、どれほど立派な法律も紙の上のルールにとどまります。
2026年9月に世界で報じられた動物福祉関連のニュースを並べると、この「確かめる仕組み」がくり返し話題になっていました。今月も「その仕組みは続くのか」という視点で、5本を整理します。
目次
チリ:犬由来の狂犬病「排除」をWHOが認定。南米で初めて
2026年9月14日、汎米保健機構(PAHO)は、チリが「公衆衛生上の問題としての犬由来の狂犬病の排除」について、世界保健機関(WHO)の認定を受けたと発表しました。南米では初めてで、世界ではメキシコ、ブータンに続く3か国目です。
チリで犬由来の狂犬病による人の死亡が最後に確認されたのは、1972年のチジャン市でした。つまり今回の認定は、50年以上にわたって「起きていない状態」を保ってきたことへの評価です。PAHOによれば、その背景には戸別訪問による犬のワクチン接種、犬と猫への無料の集団接種、犬の頭数管理、国境での監視、検査体制の強化、かまれた後の予防接種の確保がありました。
注目したいのは、認定のされ方です。チリは監視体制や検査能力、接種の実績を文書で提出し、PAHO・WHOが招集した独立の国際専門家パネルが、WHOの基準を満たしているかを検証しました。「ゼロが続いている」と自己申告するだけでは足りず、それを外部が確かめられる記録が求められたわけです。
一方で、リスクがなくなったわけではありません。現地で移動診療を行う動物保護団体Humane World for Animalsは、チリにはおよそ400万頭の放し飼いの犬猫がいると推計し、コウモリの間では狂犬病ウイルスがいまも循環していること、国境を越えた動物の移動による再侵入の可能性があることを指摘しています。
認定は到達点であると同時に、接種率と監視を保ち続ける義務の始まりでもあります。
スイス:残酷な方法で生産された毛皮の輸入と販売を禁止へ
2026年9月15日、スイス連邦議会の全州議会(上院)は、動物を虐待する方法で生産された毛皮と毛皮製品について、輸入と国内での取引を禁止する動物保護法の改正案を、賛成43、反対1で可決しました。国民議会(下院)は2025年9月の秋会期にすでに可決しています。
この改正は、毛皮の輸入禁止を求める国民発議(イニシアチブ)に対する、連邦政府の「間接的な対案」として出されたものです。政府は、毛皮の生産方法を表示させる従来の義務が、小売店や販売者の間で広く守られていなかったことを理由に挙げています。表示させるだけでは機能しなかったから、売ること自体を止める、という順序です。
議論の焦点は、「どの毛皮が残酷でないと言えるのか」を誰が判断するかでした。上院は、許容される毛皮の認証を連邦食品安全獣医局(BLV)が担う案を、40対2で選びました。業界側は自らの認証ラベルを制度に組み込もうとしていましたが、下院は2025年の段階でこの例外を退けています。
ただし、両院の間には細かな相違点が2つ残っており、下院での再審議が必要です。施行日もまだ決まっていません。動物保護団体は「輸入と販売の両方を禁じる初めての国」と評価していますが、正確には最終段階に入ったところ、と見るのが妥当でしょう。
(スイスのペットに関するルールはヨーロッパのペット先進国のルールまとめで紹介しています)
トルコ:野良犬の収容をめぐり、81県すべてに国の監査が入る
トルコの英字紙Hürriyet Daily Newsは2026年9月5日、内務省と農林省が9月中に全81県へ監査官を派遣し、野良犬の収容が法律どおりに行われているかを確かめると報じました。県知事府や市町村が対象で、怠っている自治体を特定して中央に報告する仕組みです。
もとになっているのは、2024年に成立した改正動物保護法です。自治体に野良犬を路上から収容して施設に入れ、不妊去勢と治療を行うことを義務づけ、危険な行動をする犬や治る見込みのない病気の犬については安楽死を認めています。施設の整備や予算の確保を怠った首長や議員には、刑事罰の可能性もあります。
報道によれば、すでに野良犬の97%が収容されたとされ、内務大臣は「年内に野良動物の問題を解決する」と述べています。
ここで考えたいのは、「97%」が何を意味するかです。路上から犬がいなくなったことは数字で示せます。しかし、収容された犬が施設でどう暮らしているのか、不妊去勢や治療が行われているのか、安楽死がどれだけ行われたのかは、同じようには見えてきません。今回の監査が施設の状況まで確認するとしている点は重要ですが、その結果が公表されるかどうかで、評価は大きく変わります。
「路上から見えなくなった」ことと「問題が解決した」ことは、別の話です。
(収容所の数字をどう読むかは台湾の「殺処分ゼロ」はどうなったのかでも扱っています)
アメリカ:パピーミル(大量繁殖業者)の縮小と、追いつかない監督
9月は、アメリカでは「パピーミル啓発月間」です。Humane World for Animalsは2026年9月18日、パピーミルをめぐる最新の動きをまとめました。
同団体の分析では、農務省(USDA)の許可を受けた商業繁殖業者が生産する子犬は、2020年と比べて年に約55万頭少なくなっています。ペットショップでの子犬の小売販売を終わらせる法律は、10州と530以上の自治体に広がりました。市場そのものが縮んでいるという見立てです。
一方で、同じ報告は監督の弱さも示しています。9月上旬、オハイオ州で70頭以上の犬が繁殖業者から押収され、業者は動物虐待の罪で起訴されました。この業者は、同団体が毎年まとめる劣悪な繁殖業者リストに3回載っていた人物です。それにもかかわらず、州農業局の検査記録には、2024年と2025年の飼育上の違反が一つも記載されていませんでした。
アイオワ州でも、無許可の繁殖業者2人が、施行されたばかりの州の動物虐待の重罪規定で起訴されたと報じられています。発覚のきっかけは近隣住民の通報でした。
需要が減っても、残る業者の現場を確かめる仕組みが弱ければ、問題は見えないまま続きます。USDAは9月に繁殖業者の基準見直しを表明しており、検査の中身がどう変わるかが次の焦点です。
(アメリカの繁殖業者の監督の仕組みはアメリカの犬の繁殖業者は誰が監督しているのかで解説しています)
アメリカ:FDAが医薬品の規則から「動物試験」の文言を外す
2026年9月22日、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、医薬品の安全性に関する規則の中にある「動物」試験・研究という言葉を「非臨床」試験・研究に置き換える規則(直接最終規則)を官報に掲載しました。意見募集は12月7日まで、施行は2027年2月4日の予定です。
一見すると、ただの言葉の置き換えです。FDA自身も「新たな義務は加えない」と説明しています。しかし、動物保護団体が長く指摘してきたのは、まさにこの文言でした。規則に「動物試験」と書かれている限り、製薬会社は「動物のデータがないと承認されないのではないか」と考え、代替手法に踏み切れない。言葉が、慣行を縛っていたわけです。
FDAは2025年4月に、動物試験を2030年までに「例外」にする方針を示し、その後、代替手法の一覧の公開や、サルを使う一部試験の削減などを進めてきました。今回の改正で、臓器チップや計算モデルといった手法のデータで安全性を示す道が、規則の上でも明確になります。
もっとも、規則が変わることと、実験に使われる動物が実際に減ることは別です。団体側も「次は、書かれたことが実際の削減につながるかを確かめる段階だ」としています。
まとめ:9月のニュースに共通していたこと
今月のニュースに共通していたのは、「誰が、どうやって確かめるのか」という問いでした。
チリの狂犬病排除は、50年分の記録を独立した専門家が検証して、はじめて認定されました。スイスは表示義務が守られなかった反省から販売そのものを止め、その線引きを業界ではなく行政が担う形を選びました。トルコは国が自治体を監査する仕組みをつくりましたが、施設の中の実態が公表されるかはこれからです。アメリカでは市場が縮む一方で、検査記録に違反が残らない現場がありました。FDAの改正は、規則の言葉という「見えにくい障害」を取り除くものでした。
動物福祉の前進は、法律の数や「◯%達成」という見出しだけでは測れません。決めたことが守られているかを外から確かめられる記録があり、その記録が公開されていること。9月のニュースは、制度が続くかどうかを分けるのは、その地味な部分だということを示しています。
(2026年10月 執筆。各項目の出典は参考記事をご覧ください)
あわせてお読みください:2026年8月の世界の動物福祉ニュースまとめ / EUが初めて犬猫の福祉ルールを統一
参考記事
- PAHO: Chile becomes first country in South America validated for eliminating dog-transmitted rabies as a public health problem(2026年9月14日)
- Humane World for Animals: Chile becomes first South American country to eliminate dog-transmitted rabies(2026年9月25日)
- Schweizer Parlament: 全州議会の審議結果(毛皮の輸入・取引禁止、2026年9月15日)
- swissinfo.ch: Parliament tightens rules against fur abusers(2026年9月15日)
- Hürriyet Daily News: Ministries to deploy inspectors nationwide to monitor stray dog law(2026年9月5日)
- Humane World for Animals: Good news: More puppy mills are shutting down(2026年9月18日)
- Federal Register: Nonclinical Testing Terminology(FDA、2026年9月22日)
- Humane World for Animals: In win for animals, the FDA takes new steps away from animal testing(2026年9月21日)


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