「ペット先進国」イギリスの動物福祉|世界初の法律から2025年の最新改正までの歩み

「ペット先進国」イギリスの動物福祉

「動物に優しい国」と聞いて、真っ先にイギリスを思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。
イギリスは1822年に世界で初めて動物を守る法律をつくった国であり、200年たった今も、毎年のように新しい動物福祉の法律が生まれ続けています。

この記事では、イギリスが「ペット先進国」と呼ばれるようになった歴史から、現在の中核となる「動物福祉法2006」、そして2024〜2025年に成立した最新の法律までを、時系列でわかりやすく整理します。

そもそも「動物福祉」とは?イギリス生まれの「5つの自由」

「動物福祉(アニマルウェルフェア)」とは、動物を「かわいがる」ことではなく、動物がその一生を通じて、心身ともに良い状態で暮らせるようにするという考え方です。

その基準として世界中で使われているのが、1960年代にイギリスで生まれた「5つの自由(Five Freedoms)」です。

  • 飢えと渇きからの自由
  • 不快からの自由
  • 痛み・負傷・病気からの自由
  • 恐怖や抑圧からの自由
  • 正常な行動を表現する自由

もともとは家畜の飼育環境を見直すために提唱されたものですが、今ではペット・実験動物・動物園の動物まで、あらゆる動物に適用される考え方になっています。
(「動物愛護」との違いについては、動物愛護と動物福祉の違いは?日本と海外の動物への考え方で詳しく解説しています)

イギリスが「ペット先進国」と呼ばれるまでの歩み(年表)

イギリスは、世界で初めて動物を守る法律ができた国です。主な出来事を年表にまとめました。
※イギリスは、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドで構成されています。法律によって適用地域が異なるため、一部地域のみに適用される内容は都度記載しています。

  • 1822年:世界初の動物保護法「畜獣の虐待および不当な取り扱いを防止する法律(マーティン法)」が成立
  • 1824年:世界最古の動物保護団体 SPCA(後の RSPCA)が設立
  • 1911年:動物保護法(Protection of Animals Act)が成立し、動物虐待を包括的に禁止
  • 2006年:現在の中核となる「動物福祉法(Animal Welfare Act 2006)」が成立
  • 2019年:フィン法・ルーシー法が成立
  • 2021年:動物虐待の最高刑が懲役6か月から5年に引き上げ
  • 2022年:「動物感覚法(Animal Welfare (Sentience) Act 2022)」で、動物が感情や痛みを感じる存在であることを法律で明記
  • 2024年:猫のマイクロチップ装着義務化、ペット誘拐法、生体輸出禁止法が成立
  • 2025年:子犬・子猫の輸入規制法が成立、政府が「動物福祉戦略」を発表

1822年のマーティン法が成立した頃、日本はまだ江戸時代です。
日本で初めて動物に関する法律「動物の保護及び管理に関する法律(現在の動物愛護管理法)」ができたのは1973年ですから、イギリスは日本より150年も早く「動物に優しい国」としての歩みを始めていたことになります。

現在の中核「動物福祉法2006」で飼い主に課される義務

現在、イギリスの動物福祉に関する主要な法律は、2006年にイングランドとウェールズで制定された「動物福祉法(The Animal Welfare Act 2006)」です(スコットランドと北アイルランドにも同趣旨の法律があります)。

この法律の最大の特徴は、動物を虐待することを禁止するだけでなく、飼い主に「動物の世話をする義務(Duty of Care)」を課していることです。
すべての脊椎動物に適用され、飼い主には次のことが求められます。

  • 適切な環境(住まい)を提供すること
  • 適切な食事を提供すること
  • 正常な行動パターンを示せるようにすること
  • ほかの動物と一緒に、あるいは離して飼う必要性に配慮すること
  • 痛み・苦しみ・けが・病気から守ること

これは前述の「5つの自由」をそのまま法律にしたものです。つまりイギリスでは、「虐待していない」だけでは不十分で、「きちんと世話をしていない」ことも違法になります。

違反した場合の罰則

義務に反した飼い主には、次のような罰則が科されます。

  • 動物を飼うことの禁止(一生涯の場合もある)
  • 上限のない罰金
  • 最長5年の懲役(2021年の法改正で、それまでの6か月から大幅に引き上げ)

2021年の引き上げにより、闘犬、子犬・子猫の虐待、違法な断尾・断耳などに対して、より厳しく対応できるようになりました。

名前を持つ法律たち|フィン法とルーシー法

イギリスには、1匹の動物の名前がついた法律があります。それぞれ、悲しい出来事が世論を動かし、法律を変えた例です。

警察犬の名前が由来の「フィン法」(2019年)

2016年、警察犬フィンは、ハンドラーとともに容疑者を追跡中に刺され、重傷を負いました。
しかし当時の法律では、フィンは「モノ」として扱われ、犯人を器物損壊罪でしか起訴できなかったのです。

ハンドラーのデイビッド・ウォーデル氏らの活動により、2019年、警察犬や警察馬など「働く動物」に危害を加えた者を適切に処罰するための法律、通称「フィン法」が成立しました。
フィンはその後無事に回復して職務に復帰し、2017年の引退後はテレビ番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」にも出演。2023年7月に14歳で旅立ちましたが、動物福祉の歴史に大きな足跡を残した警察犬です。

パピーミルの終焉「ルーシー法」(2019年)

劣悪な繁殖施設(パピーミル)で繁殖犬として使われ、2016年に亡くなったキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルのルーシーにちなんで名付けられた法律です。

ルーシー法により、ペットショップなどの第三者が生後6か月未満の子犬・子猫を販売することが禁止されました。子犬や子猫を迎えるには、ブリーダーから直接迎えるか、動物保護施設から譲渡を受けるしかありません。
2019年にイングランドで施行された後、2021年にはスコットランドとウェールズでも同様の規制が始まっています。

ブリーダーには次の義務が課されます。

  • ブリーダーライセンスを取得すること
  • 購入希望者に、子犬が生まれた場所で、母犬と一緒にいる姿を見せること

ライセンスなしで販売した場合は、上限のない罰金または6か月以下の懲役が科されます。
(ルーシー法の詳細と「抜け穴」については、イギリスのペットショップは子犬・子猫の販売禁止!法律の抜け穴にも迫るをご覧ください)

2024〜2025年の最新動向|猫のマイクロチップ義務化からペット誘拐法まで

イギリスの動物福祉法制は、ここ数年も止まることなく進化しています。2024年以降の主な動きをまとめます。

猫のマイクロチップ装着が義務化(2024年6月)

2024年6月10日から、イングランドでは生後20週を超える飼い猫すべてにマイクロチップの装着が義務づけられました。犬はすでに2016年から義務化されており、これで犬猫ともに「迷子になっても飼い主のもとへ帰れる」仕組みが整ったことになります。違反した場合は500ポンドの罰金です。

ペット誘拐法(Pet Abduction Act 2024)

2024年8月24日、イングランドと北アイルランドで「ペット誘拐法」が施行されました。
それまでペットの盗難は、自転車や財布と同じ「窃盗罪」で扱われていましたが、この法律により犬と猫の誘拐が独立した犯罪となり、最長5年の懲役が科されるようになりました。
「ペットはモノではなく、連れ去られれば苦痛を感じる存在である」ことを法律が正面から認めた、象徴的な改正です。

アメリカン・ブリー XL の飼育規制(2023年12月〜2024年2月)

相次ぐ咬傷事故を受け、大型犬種「アメリカン・ブリー XL」が危険犬種に指定されました。イングランド・ウェールズでは2023年12月末から販売・譲渡・繁殖が禁止され、2024年2月からは免除証明書なしで飼うことが違法になっています。
(イギリスの危険犬種規制については、土佐犬は飼ってはいけない?!イギリスで飼育禁止の危険犬とは?で詳しく解説しています)

子犬・子猫の輸入規制法(2025年12月)

2025年12月2日、「動物福祉(犬・猫・フェレットの輸入)法 2025」が成立しました。
海外で繁殖された子犬が、病気や社会化不足のまま密輸され、高値で売られる「パピースマグリング」を止めるための法律で、次の内容が盛り込まれています。

  • 生後6か月未満の子犬・子猫の輸入禁止
  • 妊娠後期の犬・猫の輸入禁止
  • 断耳・断尾・抜爪・声帯除去など、イギリスで禁止されている処置を受けた動物の輸入禁止

「動物福祉戦略」の発表(2025年12月)

2025年12月22日、イギリス政府はイングランドの「動物福祉戦略(Animal Welfare Strategy for England)」を公表しました。「すべての動物が生涯を通じて良い福祉を経験できるように」というビジョンのもと、2030年までに実現をめざす内容として、

  • 低福祉な繁殖・販売の抜け穴をふさぐこと
  • 犬猫向け電気ショック首輪の禁止に向けた協議
  • 採卵鶏のケージ飼育を2030年までに終了すること

などが盛り込まれています。「ペット先進国」の歩みは、いまも現在進行形です。

イギリスでペットを迎える方法と確認すべきこと

ペットを飼うとき、あなたならその動物をどこから迎えますか?
日本では「ペットショップから」が一般的ですが、イギリスではルーシー法により、ペットショップなどの第三者は子犬や子猫を販売できません。イギリスでの「ペットの迎え方」は、大きく2つです。

第一の選択肢:動物保護施設から迎える

イギリスには、犬・猫の保護や里親探しを行う動物保護団体が、国を代表する規模のものだけでも160以上あります。
こうした施設には、虐待から救出されたり、飼い主が飼えなくなったりして行き場をなくした動物たちが、新しい家族を待っています。
二度と同じ苦痛を味わわせないために、譲渡までには面談や自宅訪問などいくつもの確認があり、迎える側にも責任と覚悟が求められます。

ブリーダーから迎える

ケンネルクラブをはじめ、ドッグトラスト、PAAG、RSPCAといった信頼できる団体が認めたブリーダーから迎える方法です。
子犬や子猫をブリーダーから迎える際に、必ず確認すべきポイントは次のとおりです。

  • 子犬や子猫に直接会いに行く
  • 子犬や子猫が生まれた場所で、母犬・きょうだいと一緒に過ごす姿を見る
  • 生後8週間未満の子犬や子猫は迎えない
  • ブリーダーがライセンスを持っているか確認する
  • イギリス国外で生まれた子であれば、ペットパスポートまたは獣医証明書を確認する

日本との違いはどこにある?

イギリスと日本の制度を並べてみると、違いがはっきり見えてきます。

  • 最初の法律:イギリス1822年 / 日本1973年
  • ペットショップでの子犬・子猫販売:イギリスは禁止(ルーシー法) / 日本は可能(生後56日を超えてから)
  • マイクロチップ:イギリスは犬2016年・猫2024年から義務 / 日本は2022年から販売業者に義務(一般の飼い主は努力義務)
  • 動物虐待の最高刑:イギリス懲役5年 / 日本懲役5年(2020年改正)
  • ペットの盗難:イギリスは独立した犯罪 / 日本は窃盗罪

日本も2019年の動物愛護管理法改正で「8週齢規制」や「マイクロチップの義務化」が進むなど、着実に前に進んでいます。ただし「飼い主の世話をする義務」を法律で具体的に定め、違反に罰則を設けている点は、イギリスとの大きな差といえるでしょう。

まとめ

イギリスの動物福祉の歩みを、1822年の世界初の法律から2025年の最新の動きまでご紹介しました。

イギリスでは、動物は「一つの命」というだけでなく、喜びと同時に痛みや苦痛を感じる存在であることが法律で認められています。そしてその考え方は、猫のマイクロチップ義務化、ペット誘拐法、子犬の輸入規制と、いまも新しい法律として形になり続けています。

日本やイギリスに限らず、動物に寄り添い、最期の時まで世話をすることが当たり前の世界になるように、私たち一人ひとりの選択が動物たちにどんな影響を与えるのか、考え続けていきたいものです。

執筆者:小原有加里
(2026年9月 最新の法改正を反映して更新)

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