• HOME
  • 記事一覧
  • ヨーロッパ
  • スイスの動物保護法は何を決めているのか|モルモットは2匹以上、犬の講習義務は2017年に廃止、2025年に断耳犬の輸入禁止

スイスの動物保護法は何を決めているのか|モルモットは2匹以上、犬の講習義務は2017年に廃止、2025年に断耳犬の輸入禁止

スイスの牧草地で、木製の囲いの中のモルモット2匹と、そばでくつろぐ犬

「スイスは世界でいちばん厳しい動物保護法の国」。日本語のペット記事でよく見かける言い方です。モルモットを1匹で飼うと違法になる、犬を飼うには講習が必要、といった話もセットで紹介されます。

では、スイスの法律は実際に何を決めているのでしょうか。連邦の動物保護法と動物保護令の条文(2026年2月1日時点の版)を読むと、広く知られた話の中には、いまも正しいものと、すでに変わったものが混ざっていました。

先に結論を書くと、モルモットの複数飼育や犬の断耳・断尾の禁止は今も条文にあります。一方、犬の飼い主の講習義務は2016年末で国の制度としては廃止されました。この記事では、条文と議会の記録をもとに、スイスの動物保護のしくみを整理します。

法律の土台|「動物の尊厳」を守る法律

スイスの動物保護は、連邦憲法第80条(動物保護)にもとづく「動物保護法」(TSchG、2005年12月16日成立、2008年9月1日施行)と、細かな基準を定める「動物保護令」(TSchV、2008年4月23日)の2本立てです。

特徴は、法律の目的に「動物の尊厳(Würde)と幸福を守る」と書かれていることです(第1条)。尊厳は「動物それ自体の価値」と定義され、痛みや苦しみだけでなく、恐怖を与える、おとしめる、外見や能力に深く手を加える、過度に道具として扱うことも「負担」に含まれます(第3条)。

民法でも、2003年4月1日から「動物は物ではない」という条文(民法典第641a条)が加わっています。

ただ、法律は連邦が作り、実際の監督は州(カントン)が担います(憲法第80条第3項)。「スイスの基準」は全国共通でも、取り締まりの濃さは州ごとに違う、という点は押さえておきたいところです。

ドイツやオーストリアなど、ヨーロッパのほかの国の決まりの概要はヨーロッパのペット先進国のルールまとめで紹介しています。

社会性のある動物は「仲間との接触」が必要

よく知られた「モルモットを1匹で飼ってはいけない」は、今も有効です。

  • 原則:群れで暮らす種類の動物には、同じ種類の仲間との適切な接触を与えなければならない(動物保護令第13条)
  • モルモット:付録2の表で「少なくとも2匹のグループで飼う」と定め、2匹で0.5平方メートル以上、1匹増えるごとに0.2平方メートルを追加
  • ウサギ:生後8週までは1匹で飼ってはならない(第64条)。大人のウサギにも第13条の原則がかかる
  • 猫:1匹で飼う場合は、毎日人と触れ合うか、ほかの猫が見える環境が必要(第80条)

つまり「1匹飼いの全面禁止」ではなく、その動物にとって仲間が必要かどうかを、種類ごとに条文で書き分けているのがスイスのやり方です。

犬のルール|毎日の散歩、つなぎ飼いの5時間

犬については、動物保護令の第10節にまとまった規定があります。

  • 人との接触:毎日十分に人と、できればほかの犬とも接触させる(第70条第1項)
  • 散歩:毎日、必要に応じて屋外に連れ出す。可能ならリードなしで動ける機会も(第71条第1項)。犬舎やつなぎ鎖の中にいることは「運動」に数えない
  • つなぎ飼い:日中に少なくとも5時間は自由に動けるようにし、それ以外も20平方メートル以上を動ける鎖にする(第71条第3項)
  • 犬舎飼い:3か月を超えて犬舎で飼うなら、隣の囲いの犬と見え・聞こえ・においがわかる状態にする(第70条第2項)
  • 子犬:母犬から離してよいのは生後56日から(第70条第4項)

人や動物に大きなけがをさせた犬や、過度に攻撃的な犬については、獣医師・医師・保護施設・ドッグトレーナー・税関職員に州への届け出義務があります(第78条)。州は事実を確かめ、必要な措置を命じます(第79条)。

繁殖については、1年に自家繁殖した犬を20頭、または3腹を超えて譲る場合は、州の許可が必要です(第101条)。

禁止されていること|断耳・断尾、電気ショック首輪、猫の爪の切除

スイスの条文は「してはいけないこと」を具体的に並べます。

  • 犬:断尾・断耳、声帯の切除(第22条)
  • しつけの道具:電気ショックを与える器具、犬にとって非常に不快な音を出す器具、化学物質で作用する器具の使用(第76条第2項。治療目的で州が例外を許可する場合を除く)。ストッパーのない締まる首輪やトゲ付き首輪(第73条第2項)
  • 猫:爪の切除手術(第24条)
  • ペット全般:飼いやすくするための手術(歯の切除、翼の切断、臭腺の除去など)。不妊手術は除く(第24条)
  • 捨てること:手放す目的で動物を置き去りにすること(第16条)。動物保護法では、故意の虐待や遺棄は3年以下の自由刑または罰金(第26条)

2025年の改正|断耳・断尾犬と幼い子犬の輸入禁止

スイス国内での断耳・断尾はもともと禁止されていましたが、国外で処置した犬を輸入すれば飼えるという抜け道がありました。2024年12月20日の改正令(2025年2月1日施行)で、この部分が変わりました。

  • 断耳・断尾した犬の輸入を禁止(第76a条)。医療上の理由による場合と、引っ越しで飼い犬を連れてくる場合は例外。ただし引っ越しで連れてきた犬は、展示会に出したり売りに出したりできない
  • 生後15週未満の犬の輸入を禁止(第76b条)。商業目的、または譲渡や販売のための輸入が対象
  • ネットで犬を売る人は、出身国と繁殖国を書く(第76d条)

国内のルールだけ厳しくしても、国外から入ってくれば効果は薄れます。輸入の段階で止めるという発想は、EUの犬猫福祉規則の議論(EU犬猫福祉規則の記事)とも重なります。

犬の講習義務は2017年に廃止された

「スイスでは犬を飼う前に講習が必要」という説明は、今は正確ではありません。

  • 2008年:犬の飼い主に講習(SKN)を義務化
  • 2016年3月:連邦食品安全獣医局(BLV)の評価で、住民の87%、飼い主の70%が講習を支持
  • 2016年:講習義務の廃止を求める動議(16.3227)を議会が可決。連邦政府は評価を理由に反対していた
  • 2017年1月1日:国の講習義務を廃止(2016年11月23日の改正令)

BLVは今も、初めて犬を飼う人には講習を勧めています。州が独自に義務づけることもでき、バーゼル=シュタット州では2024年3月、州政府が「初めて犬を飼う人の講習を再び義務にする」改正案を州議会に出しました。理由として、廃止後に攻撃的な犬の事案やかみつき事故の届け出が再び増えたことを挙げています。

「何でも国民投票で決める」わけではない

スイスの法律がすべて国民投票で決まるわけではありません。動物保護法は「任意的レファレンダム」の対象で、成立から100日以内に5万人の署名(または8つの州の要求)が集まったときだけ国民投票になります(憲法第141条)。2005年の動物保護法は、国民発議「現代的な動物保護を(Tierschutz-Ja!)」が取り下げられたあとで公布され、国民投票にはなりませんでした。

国民投票で否決された例もあります。2022年9月25日の「大規模畜産をなくす」国民発議は、反対1,799,088票・賛成1,062,703票(反対約63%)で否決されました。「動物にやさしい国」でも、すべての提案が通るわけではないということです。

日本との違い

  • 子犬を親から離す時期:スイスは生後56日から。日本も2021年6月から、販売業者は生後56日を過ぎるまで犬猫を販売できなくなり、数字は同じです
  • 断耳・断尾:スイスは禁止し、輸入も禁止。日本には禁止する条文がありません
  • しつけの道具:スイスは電気ショック首輪などを原則禁止。日本には使用を規制する法律がありません
  • モルモットやウサギの飼い方:スイスは種ごとに仲間や広さの最低基準を条文で定めています。日本は飼い主向けの基準(告示)で一般的な努力を求めるにとどまります
  • 飼い主の講習:どちらも国の義務はありません。スイスは一度義務化して評価し、議会が廃止を決めた、という経緯があります

ほかの国の飼育ルールは、スウェーデンの犬の飼育ルールやオランダの記事でも紹介しています。各国の比較は動物福祉の国別ランキングもあわせてどうぞ。

まとめ

スイスの動物保護法の特徴は、「動物の尊厳」という考え方を法律の目的に置き、それを散歩の時間、鎖の長さ、仲間との接触といった測れる基準に落とし込んでいることです。

一方で、犬の講習義務のように、一度入れた制度を評価し、議会の判断で廃止したものもあります。「世界一厳しい」という一言でまとめるより、何が決まっていて、何が変わったのかを条文で確かめるほうが、日本で制度を考えるときの材料になります。

基準が具体的であれば、守られているかどうかを確かめることもできます。善意に頼るのではなく、確かめられる形にする。スイスの条文から学べるのは、その点だと思います。

(2026年10月 執筆。条文は2026年2月1日時点の動物保護令、2023年9月1日時点の動物保護法にもとづいています)

参考記事

関連記事

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。